【<骨太方針決定>小粒な成長戦略 経済運営、財政頼み】

2017年6月9日
毎日新聞

政府は9日、経済財政運営の指針「骨太の方針」や新たな成長戦略「未来投資戦略」など来年度予算編成に向けた一連の政策方針を閣議決定した。成長戦略は小粒にとどまる一方、歳出拡大につながる施策が盛り込まれるなど、財政再建に向けた姿勢は後退。アベノミクスが5年目を迎え手詰まりとなるなか、財政頼みの経済運営が一層強まりそうだ。

「成長と分配の好循環を拡大していくため、人材への投資を通じた生産性の向上を図る」。安倍晋三首相は9日の経済財政諮問会議で、人材育成を重視する方針を強調した。

骨太の方針で人材育成の目玉に据えた幼児教育・保育の早期無償化は、待機児童対策と合わせ教育や子育ての負担を減らすのが狙い。財源については「年内に結論を得る」としており、自民党内で議論されている「こども保険」を軸に検討が進む見通しだ。だが、社会保険料を一律に引き上げて徴収する「こども保険」は、「所得が低い層ほど負担が重くなる」との指摘もある。また、子供のいない世帯の不公平感をどう解消するかなど、実現に向けた課題は多い。

一方、成長戦略や規制改革は、切り込み不足が目立った。成長戦略は、人手不足解消に向けて、人工知能(AI)や自動運転技術の普及などを後押しすることなどが柱。小型無人機(ドローン)や自動運転などの導入促進に向け、政府が企業の要望などを踏まえて規制を一時的に停止し、革新的な事業を試験的に行いやすくする新たな規制緩和策「日本版レギュラトリー・サンドボックス(規制の砂場)」の創設などを盛り込んだ。

だが、労働分野などにおける規制には踏み込まなかった。解雇された労働者に対して、企業が一定の金額を支払うことで解雇できるようにする「金銭解決制度」は、昨年度の成長戦略で「必要性を含めて速やかに検討する」としていたが、今回は「厚生労働省の審議会に委ねる」との考えにとどめた。経済界は要望していたが、労働界の反発などを踏まえて先送りした格好だ。

規制改革も、東京五輪に向けたホテルの設置基準緩和など小粒なものにとどまっており、成長底上げに必要な大胆な規制緩和とはほど遠い内容となった。

今回の骨太の方針では、消費税増税に関する文言が消えるなど、財政再建の本気度に疑問符が付く内容となった。

第2次安倍政権発足後、毎年、消費税増税に言及してきた。首相が消費税率10%への引き上げ先送りを表明した昨年も、新たな実施時期(2019年10月)を明記。増税の根本方針は変わらないことを示していた。石原伸晃経済再生担当相は9日の記者会見で「増税は避けて通れない。間違いなく上げていく」としたが、政府内では早くも増税再々延期の観測が出ている。

財政健全化を巡っても、20年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)黒字化という従来の目標に、「債務残高対GDP(国内総生産)比の安定的な引き下げ」という新指標が加わった。借金を減らさなくても経済成長でGDPが拡大すれば低下が見込める指標で、歳出抑制のタガが緩む可能性がある。

実際、骨太の方針では、素案にあった歳出抑制策の一つが削除された。後発薬と効き目が同じで価格が高い特許切れの薬を患者が選んだ場合、その差額を自己負担する仕組みを検討するとしていた。だが製薬業界と関係の深い自民党の反発で削除され、社会保障費削減の政治的なハードルの高さが改めて浮き彫りとなった。

骨太の方針に盛り込まれた幼児教育・保育の無償化には、巨額の費用が必要。高等教育の新たな負担軽減策も検討されており、歳出拡大圧力は強まっている。18年度は財政健全化の中間検証にあたり、今後、目標見直しに向けた議論が活発化しそうだ。

ユニオンからコメント

政府が、「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定したというニュースです。

【ご参考】【経済財政運営と改革の基本方針2017】内閣府

【ご参考】【経済財政運営と改革の基本方針2017の主なポイント】内閣府(PDF:732KB)

安倍政権は、幼児・高等教育無償化の財源として教育国債発行を検討するなど、お金を使うことには熱心ですが、国際公約(2020年度の基礎的財政収支【PB】黒字化)の実現にはあまり関心がなく、PB目標に代えて債務残高の対GDP(国内総生産)比を目標にしようとしています。

この目標なら、GDPさえ拡大してくれれば、1000兆円を超す借金がさらに膨らんでも数字の上では比率が低下するからです。この考え方が「悪魔の理論」と批評されていることを、ユニオンで紹介しました。「骨太」とは、基本や根幹がしっかりしていることです。財政や国の借金という根幹について、小手先の指標を変えることで国際社会や国民の目を欺くなら「骨粗鬆症の方針」と言わざるを得ません。

【ご参考】【積極財政、首相に進言次々】

基本方針の概要には「名目GDPは過去最高の水準」「600兆円経済の実現を引き続き一体的に推進する」と書かれています。ところが、安倍首相が本部長となって推進を目指す「SDGs」には、(17-19)に、(2030 年まで)に、(GDP以外の尺度を開発する)ことへの取組を前進させるよう加盟国に求めています。GDP拡大を目指すことには、(国連が根絶を目指す)格差や貧困を生み出してしまう側面があるからです。

【ご参考】【持続可能な開発目標(SDGs)推進本部】首相官邸

あくまでもGDP成長を目指すのか、国際社会と歩調を合わせ持続可能な社会を目指すのか、
似ているようで大きな違いがあります。ひとたび財政運営方針や成長戦略が決定すれば、軌道修正は難しいものになってしまいます。借金を膨れ上がらせてでもGDP成長を目指すなら、同じ考えを持つ有識者の意見・意向を聞くばかりではなく、世界情勢・動向を冷静に見極め将来にも責任を持てる政策を期待します。

「未来投資戦略」と名付けられた成長戦略には、新たな規制緩和策「日本版レギュラトリー・サンドボックス(規制の砂場)」が盛り込まれました。格好いいフレーズ、規制緩和が大好きな政権らしい案ですが、説明責任や透明性についても「将来見通しの検討を含め、更なる(見える化)に向けて取り組む」と宣言しています。説明責任と透明性について、政府が企業に求めているものと、政府の対応を比較してみましょう。

【大企業の残業時間、公表義務付け 厚労省が20年メド】

厚生労働省は2020年にも従業員の残業時間の公表を大企業に義務付ける。企業は月当たりの平均残業時間を年1回開示するよう求められ、従わなければ処分を受ける。それぞれの企業の労働実態を外部から見えやすくし、過度な長時間勤務を未然に防ぐ狙いがある。政府は働き方改革を看板政策と位置づけ、長時間労働の慣行を改めるため残業規制を強化しつつある。厚労省は今回の公表義務で働き方改革に弾みをつけたい考えだ。(2017年5月18日 日本経済新聞)

【相談役・顧問の役割明示 経産省、透明性確保へルール】

経済産業省は、上場企業を対象に顧問や相談役の役割を明示するよう促すルールづくりに乗り出す。経産省は既に金融庁や東京証券取引所と協議を開始。企業が東証に提出する文書に顧問・相談役の役割を明記するような仕組みを検討している。会長や社長が退任後に顧問・相談役として企業に残り、実質的な「院政」の形で現経営陣に影響力を行使しているとの批判がある。対応を打ち出す企業もあるなか、一段と透明性を確保する環境整備も必要と判断した。(2017年5月22日 日本経済新聞)

【情報公開どこに・・・経産省が執務室に鍵 報道機関は反発】

経済産業省が、庁舎内の執務室を日中も原則施錠する運用を始めた。報道機関は「情報公開の後退につながる」と反発している。大半の中央省庁は玄関で訪問者の身元確認をしており、執務室には原則として鍵をかけないところも多い。閣僚などから経産省の対応を疑問視する声も上がっている。施錠の発表は先月20日。翌21日、閣議後の記者会見で理由を聞かれた世耕弘成経産相は「企業情報や通商交渉に関する機微情報を扱っている。私が(大臣)就任当初から問題意識を持っていた」と説明した。だが、経産省職員からは「扉が開いているから情報が漏れたなんて聞いたことがない」という声も上がる。(2017年3月1日 朝日新聞)

【特区担当入る庁舎、記者の入館を許可制に 内閣府】

内閣府地方創生推進事務局などが入る永田町合同庁舎について、内閣府が4月10日から、取材記者の入館を許可制に変更している。同事務局は、安倍晋三首相の友人が理事長を務める加計学園(岡山市)の獣医学部新設を認めた国家戦略特区を担当しており、取材規制に専門家から疑問の声が出ている。この庁舎はこれまで、官庁や国会を取材する記者が持つ国会記者証があれば許可なしで庁舎内に立ち入ることができた。対応の変更は週刊誌などが加計学園の問題について「第2の森友疑惑」などと報じ始めた後。(2017年5月27日 朝日新聞)

民間企業は、残業時間や顧問・相談役について、厳しく説明責任と透明性を求められています。それを求めている政府は、情報を厳しく遮断し不透明にし、名誉校長や理事などについて説明責任を果たすことなくうやむやにして済ましています。「骨太の方針」を掲げる政府の、「神経の図太さ」が際立っています。掲げた政策が国民から理解・支持されるには、民間企業が投資家に対峙するのと同様、高い透明性と丁寧な政治姿勢が求められます。

出典元:毎日新聞・内閣府・首相官邸・日本経済新聞・朝日新聞