【iPS細胞 他人由来での治療患者を募集 神戸・目の難病】

2017年2月6日
毎日新聞

他人由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)で目の難病を治す臨床研究について、厚生労働省が計画を了承したことを受け、神戸市立医療センター中央市民病院などのグループが6日、対象患者の募集を始めた。理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらが記者会見して明らかにした。今年前半の手術実施を目指す。

研究は網膜の細胞に異常が起き、視野の真ん中がゆがんだり、暗くなったりする「滲出型加齢黄斑変性(しんしゅつがたかれいおうはんへんせい)」を対象に実施。京都大iPS細胞研究所が拒絶反応が起きにくいタイプのiPS細胞を用意し、理研が網膜の細胞に分化させる。中央市民病院と大阪大病院がこの細胞を含んだ液体を患者に移植して網膜を再生させる。患者自身のiPS細胞を使う場合に比べ、時間や費用を圧縮できる。

募集するのは、50~85歳で3年以内にがんの診断を受けておらず、通常の治療法で効果が出ていない患者。主治医を通じて申請してもらう。5人以上に移植し、効果や拒絶反応の有無などを追跡調査する。大きなトラブルなどがない限り、研究の途中経過は公表しない方針だ。

京大iPS細胞研究所の山中伸弥所長は「iPS細胞を使った再生医療が普及するために重要なステップ。引き続き4機関で協力していきたい」とのコメントを出した。

ユニオンからコメント

他人のiPS細胞を使っての臨床研究計画を厚生労働省が了承したので、対象となる患者の募集が始まったというニュースです。

人間に対する「他人のiPS細胞を使う臨床研究」は世界初の試みですから、いよいよ再生医療の実現に向けた環境が整いつつあることを実感します。他人のiPS細胞を使う最大のメリットは、「費用」と「時間」です。

2014年9月12日に世界で初めて行われたiPS細胞を使った移植手術は、患者本人の皮膚からiPS細胞をつくって行われましたが、準備・検査に10カ月間、約1億円の費用がかかっています。この、時間と多額の費用を抑えるために、多数の患者に使えるiPS細胞をあらかじめ準備する事業が計画されています。

「医療用iPS細胞ストック事業」は、文部科学省や厚生労働省などの協力で進められ、拒絶反応が起きにくい特殊な免疫の型を持つ人をドナーに、再生医療に使用可能なiPS細胞を作製して保存しておくことで、多くの難治性疾患の治療に役立てようとするものです。

現在用意されているiPS細胞は日本人に最も多いタイプの1種類で、日本人の17%をカバーできますが、いずれ140種類が確保できれば日本人の9割をカバーできるとされています。多くのiPS細胞が準備され、それが治療に使えるようになれば、大幅に費用を抑えることが可能になります。また、他人のiPS細胞を使って行う臨床研究には、他の病気治療に対する期待も大きくなります。

【パーキンソン病治験、18年度にも実施 京大】

iPS細胞(人工多能性幹細胞)で神経難病のパーキンソン病を治療する治験を、京都大iPS細胞研究所が2018年度を目標に行う方針を明らかにした。患者以外の他人のiPS細胞を神経細胞になる前の細胞にして、患者の脳に移植する。
当初は患者本人から作ったiPS細胞を使った移植を臨床研究として行う計画だった。しかし、時間やコストの圧縮と早期実用化を狙い、同研究所のストック事業で備蓄する成人の血液から作ったiPS細胞を使い、治験として行うことにした。
治験なら分化した細胞について、製品として承認を得ることが可能になる。他人のiPS細胞なら、準備から移植までの時間を1年から1カ月程度に短縮できる。高橋教授は「一日も早く患者に届けたい」と話した。(2017年2月3日 毎日新聞)

さらに、この分野の臨床研究が進むと、これまで解明されていなかった病気解明への応用や、新しい治療法の確立にも期待が持てます。

【糖尿病治療に成功 ラット体内で膵臓作製→マウスに移植】

ES細胞(胚〈はい〉性幹細胞)やiPS細胞を使って、ラットの体内で、別の種の動物であるマウスの膵臓(すいぞう)をつくり、糖尿病のマウスに移植して治療することに、東京大などのグループが成功した。
別の種の動物に作らせた臓器を移植し、治療効果が確認されたのは初めてという。将来はヒトの臓器を動物でつくらせる研究につなげたい考えだ。25日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表する。グループはできたマウスの膵臓の組織を、薬で糖尿病にした別のマウスの腎臓部分に移植した。再び組織を取り出すまでの約370日間、血糖値が正常に保たれ、取り出した後は血糖値が高い状態に戻った。移植から5日間は炎症を抑えるために免疫抑制剤を使ったが、その後は使わずに済んだ。(2017年1月26日 朝日新聞)

【自閉症 発症の仕組みの一端解明 九大グループ】

自閉症を引き起こす仕組みの一端を遺伝子異常の側面から解明したと、九州大の研究グループが発表した。7日付の英科学誌「ネイチャー」電子版に掲載される。
自閉症の原因に関係すると考えられる遺伝子は数多く報告されている。特にDNAの転写などに関わる「CHD8」を持っていない人は患者で最多の約0.4%いるとの研究もあるが、具体的な因果関係は不明だった。
中山敬一・九大主幹教授(細胞生物学)らは、CHD8がないマウスを作製し、行動を観察。正常なマウスに比べ、不安を強く感じたり、仲間に関心を示さなかったりする自閉症の傾向がみられたという。次にさまざまな遺伝子の働きを調べ、CHD8のないマウスは「REST」というたんぱく質が異常に活性化することが分かった。
RESTは胎児の神経細胞の発達を止める働きがある。そのため、自閉症を引き起こすと考えられるという。中山主幹教授は「RESTの働きを抑制する薬を作り、患者に届けたい」と話した。(2016年9月8日 毎日新聞)

例えば、これまでの調査から「糖尿病の人はうつ病になりやすい」と考えられています。今のところ、どうしてそうなってしまうかについての原因は解明されていませんが、ES細胞やiPS細胞を使って糖尿病治療に成功したというニュースは朗報です。もう一方の、うつ病のメカニズム解明も確実に進んでいます。

【ご参考】【国立国際医療研究センター研究所 糖尿病情報センター】

【ご参考】【うつ病 症状の重さに関連する血中代謝物 九州大などの研究チームが発見】

身体の病気と精神の病気が、併発してしまうことは決して珍しいことではありません。
精神疾患の人のなかには複合的な特徴を併せ持つ人も少なくありません。実際に、専門知識を持つ医師でも治療方針に迷うことがあるようです。
医療技術の進歩によって、「糖尿病とうつ病、どちらから先に治療するべきか」ではなく、どちらも同時に治療することが可能になる日が来るかも知れません。そして、その技術は多くの人を救うことになるはずです。

出典元:毎日新聞・朝日新聞・国立国際医療研究センター研究所 糖尿病情報センター