【HISに是正勧告5回・・・労基署、違法残業で】

2017年2月2日
読売新聞

従業員に違法な長時間労働をさせた疑いで、東京労働局が労働基準法違反容疑で強制捜査に入った大手旅行会社「エイチ・アイ・エス」(東京都新宿区)では、2014年以降、違法な長時間労働があったとして5回の是正勧告を受けていたことが1日、同社への取材でわかった。

同社などによると、14~16年の間、各地の営業拠点に対し、労働基準監督署による是正勧告が行われた。しかし、改善が見られていないとして、大企業の違法な長時間労働を専門に取り締まる東京労働局の過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)が16年3月、同社に対し、任意の調査を実施。同7月には本社への強制捜査を行ったという。

また同社は、今回の捜査対象になっているのは、法人向けの営業を担う部署などだったことも明らかにした。15年には、同部署などの従業員2人にそれぞれ、1か月当たり最長で110時間と135時間の残業をさせていたという。

同法36条に基づく同社の労使協定では、繁忙期の残業時間の上限は月78時間で、これを大幅に上回っていた。

同社は「関係の皆様に心配をかけ、深くおわび申し上げる。労働局の指摘を厳粛に受け止めている」とコメント。現在は店舗の営業時間の短縮や旅行シーズンの人員配置の見直しなどを行い、違法状態を解消したという。

ユニオンからコメント

労働基準法違反容疑で東京労働局の強制捜査を受けた大手旅行会社HISが、これまで労働基準監督署から5回も是正勧告を受けていたことがわかったというニュースです。

HISは、労働基準監督署から繰り返し是正勧告を受けていたにもかかわらず、一向に改善されないので、東京労働局が強制捜査に踏み切り、法人・幹部社員について書類送検する方針を固めたと報じられています。

【HIS、違法残業の疑いで強制捜査・・・書類送検へ】

大手旅行会社「エイチ・アイ・エス」(東京都新宿区)が複数の従業員に違法な長時間労働をさせた疑いがあるとして、東京労働局が、労働基準法違反容疑で強制捜査に入っていたことが関係者への取材でわかった。
同局は、すでに複数の幹部らから事情を聞いており、容疑が固まり次第、法人としての同社と、幹部を同法違反容疑で東京地検に書類送検する方針。捜査は、大企業の違法な長時間労働を専門に取り締まる同局の過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)が担当。昨年7月、同法違反容疑で同社本社などを捜索し、勤務記録などの資料を押収した。記録を分析するとともに、幹部らから聴取するなどした結果、違法な長時間労働が判明した。
同社経営企画室は読売新聞の取材に対し、「調査の有無も含め、現時点での回答は差し控えたい。行政から指導があれば従う」とコメントした。(2017年2月1日 読売新聞)

昨日の読売新聞記事に、「行政から指導があれば従う」との同社コメントが載せられていますが、労働基準監督署の是正勧告を何度も無視し続けた事実は「行政から指導があっても従わなかった」のですから、確信犯的ではないかと疑わざるをえない悪質な事件です。

HISの捜査を担当する、過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)は、2015年4月1日に東京・大阪労働局に新設された組織です。

【ご参考】【フォトレポート(平成27年4月1日)】厚生労働省

大手広告会社「電通」に対する強制捜査でも注目された(かとく)は、これまで、ディスカウントストア大手「ドン・キホーテ」や靴販売チェーンのABCマートを運営する「エービーシー・マート」などを労働基準法違反容疑で書類送検しています。2社はいずれも起訴され、労働基準法の罰則上限を超える罰金50万円の略式命令を受けました。

この他にも、大阪や愛知などを中心にスーパーマーケットを展開する大手小売業「コノミヤ」、「和食さと」を運営する大手飲食業「サトレストランシステムズ」、「まいどおおきに食堂・串家物語」を運営する「フジオフードシステム」が、(かとく)の捜査を受け書類送検されています。

書類送検とは、捜査書類を検察に送ることで、被疑者の身柄が拘束(逮捕)されていない事件について、捜査書類だけが検察庁に送致されることをいいます。書類送検されれば捜査が終わりということではなく、書類送検後に検察による捜査を経て、起訴されるかどうかが決まります。証拠不十分などで起訴を免れても、前歴は残ります。

つまり、労働基準法違反で書類送検されるということは、その企業によって犯罪が行われたということですから、信用失墜は免れません。信用を大切にする多くの企業はコンプライアンスを遵守するとホームページで宣言しています。

コンプライアンスとは、会社が法令や規則を守ることをいいますが、CSR・企業倫理と並んで重要視されているテーマです。厚生労働省が、長時間労働の是正に向けた課題を把握をするために開催した「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」でも、「企業自らが法令遵守にしっかり取り組まなければならない」と結論付けました。

【ご参考】【仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会】厚生労働省

【ご参考】【仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会(論点の整理)】厚生労働省(PDF:352KB)

議論が本格化しはじめた働き方改革実現会議では、残業時間の上限規制で労使の対立が表面化しつつあります。

【連合、月100時間に反対 残業規制で労使の認識差】

政府の働き方改革実現会議で議論されている残業上限規制をめぐり、労使双方の認識の違いが鮮明になってきた。連合の神津里季生会長は1日、首相官邸で開かれた同会議後、政府が繁忙期は月100時間まで残業を認める方向で調整していることを「到底ありえない」と批判、大幅な圧縮が必要だとの考えを示した。これに対し、経団連の榊原定征会長は、繁忙期の残業上限を月100時間とした政府原案を「まあまあ妥当な水準」と評価。上限規制は必要としながらも、仕事の繁閑期の差やリコール(回収・無償修理)など突発的な事態への対応が可能な仕組みにすべきだと主張した。(2017年2月2日 時事通信)

月100時間とした政府原案を「まあまあ妥当な水準」と評価した経団連・榊原会長は、東レの元社長(現在は相談役最高顧問)です。東レは、労使協定で1か月に延長できる残業時間を100時間としています。

過労死・過労自殺を出さないという共通の目的に向かう会議では、お互いの立場・事情を越えた議論がされるべきです。例えば、残業時間の上限規制についてなら、電通やABCマートなどから意見聴取して議論に活用することを考えてみてはどうでしょう。
「違法な長時間労働」と大きく報道された会社では、再発防止を徹底するために、あらゆる見直しを行っているはずです。その過程で出された課題点や解決策は、働き方改革実現会議でも大いに参考になるはずです。

出典元:読売新聞・厚生労働省・時事通信