【障害者虐待、15年度7.1%増 被害者は初の3000人超】

2016年12月16日
日本経済新聞

障害者への虐待の疑いで2015年度に全国の自治体などに寄せられた相談・通報のうち、虐待に当たると判断された件数が2439件に上ったことが16日、厚生労働省の調査でわかった。職場での虐待が増加し、前年度比で7.1%増加した。被害に遭った障害者は3154人と初めて3千人を超え、このうち3人が死亡していた。

障害者への虐待が増えた原因として、職場での虐待の対象範囲を広げたことが影響しているが、厚労省は「2012年施行の障害者虐待防止法で発見者の通報を義務付けたことで、隠れていた虐待が表に出るようになってきた」と分析する。

障害者への虐待で最も多いのは父母や兄弟姉妹など「養護者」による虐待。1593件で被害者は1615人に上る。虐待行為(複数回答)をみると、暴力をふるうといった「身体的虐待」が993件で最多だった。

障害者福祉施設の職員らによる虐待は339件で被害者は569人。虐待が起きた要因を複数回答で聞いたところ、「介護技術などに関する問題」が183件、「虐待を行った職員の性格や資質の問題」が167件の順だった。

各都道府県の労働局が、職場の雇用主や上司による虐待があったと判断したのは507件。被害者は970人だった。

ユニオンからコメント

2015年度に虐待を受けた障害者数の調査した結果、虐待件数が過去最多を更新したと厚労働省が発表しました。

【ご参考】【平成27年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)】厚生労働省(PDF:220KB)

障害者に対する虐待は、「水戸アカス事件」(1995年:茨城県水戸市で発覚した知的障害者に対する暴行・強姦事件)や、「滋賀サングループ事件」(1996年:滋賀県大津市で発生した死者5名を出した知的障害者に対する虐待・横領事件)がマスコミに大きく報道されたことで社会問題化し、後の障害者虐待防止法成立へとつながっています。

障害者虐待と、職場ハラスメント(パワハラ・セクハラ)、そして障害者差別は密接に関連しています。

2012年10月1日に施行された「障害者虐待防止法」は、使用者による障害者虐待を禁止して、禁止する虐待には身体的・性的・経済的虐待に加えて心理的虐待を明記しました。障害者に対する職場での嫌がらせ(ハラスメント)が、この(心理的虐待)と重なることが多いため、ハラスメントと虐待の関係性についてが問題になります。

また、(ハラスメント)と(差別)の取り扱いについては、障害者差別解消法の成立過程で、(ハラスメント)の禁止・防止を条項に加えるか、刑法上の暴行罪や侮辱罪とどう異なるか、障害者差別解消法と障害者虐待防止法との関係をどのように考えるか、などが内閣府「障がい者制度改革推進会議」で議論されてきました。

議論のなかで、「差別と虐待の中間に存在するハラスメントによって、多くの障害者が機会を失われ、尊厳性を失ってきた」との意見が出されました。また「ハラスメントは差別と虐待の谷間で長く救済できなかったが、女性が主張し始めたことでセクハラという概念ができ上がり、被害を訴えやすくなった」との意見もありました。

ハラスメントも差別も、人間の尊厳に対する中傷で、人権侵害であり、どちらも禁止されるべき行為であることに議論の余地はありません。
つまり、障害者虐待も、人権侵犯の問題です。人権が侵害された疑いのある事件は「人権侵犯事件」と呼ばれます。
法務省が調査する人権侵犯事件は、法律に違反した行為だけに限らず、憲法や世界人権宣言の基本原則である人権尊重の精神に反するような行為も含んでいます。人権侵犯事件には、部落差別・同和問題に関する事案があります。

【部落差別解消推進法が成立 罰則ない理念法 】
部落差別の解消を目指し、国や自治体に相談体制の充実や実態調査を求める「部落差別解消推進法」が9日、参院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立した。罰則のない理念法。推進法は「現在もなお部落差別は存在する」と明記。「基本的人権を保障する憲法の理念にのっとり許されない」として対策を求めている。法務省によると、同和問題に関する人権侵犯事案は減少傾向にあるものの、法務局が調査を始めた件数は2011~15年に年間85~137件で推移している。インターネット上に同和地区として特定の地域を書き込むケースもある。(2016年12月9日 日本経済新聞)

【ご参考】【平成27年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)】法務省(PDF:556KB)

平成27年度の調査結果を見ると、差別待遇事案として、障害者に関するものが265件、同和問題に関するものが93件報告されています。部落差別問題と障害者差別問題を同列に並べ単純に比較することは出来ませんが、「人権侵害をなくすために、差別をなくそう」の取り組みはよく似ています。

新しく作られた「部落差別の解消の推進に関する法律」では、目的として「この法律は、現在もなお部落差別が存在するとともに、部落差別は許されないものであるとの認識の下にこれを解消すること、部落差別のない社会を実現すること」と書かれています。

今年4月に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」も、「障害者差別のない社会を実現すること」を目指しているのは同じです。

「現在もなお存在する差別を解消して、差別のない社会を実現する」ために作られた二つの差別解消法は罰則のない理念法です。
理念法とは、いってみれば「してはいけない」という、社会への啓発的な効果を求める法律です。
しかし、法律が出来たことで「差別があると公に認められた。逆にやり易くなった」と考える人がごく稀に存在します。
「どうせ罰則はない」だから堂々と差別する、人です。

「インターネット上に同和地区として特定の地域を書き込むケースもある」と法務省が指摘しているように、インターネット上には「障害者への差別用語や障害者を蔑視して侮辱する意見」が氾濫しています。事実、「障害者 嫌い」と検索入力してみると、大量の書き込みに出会います。これを書いた人たちが、インターネットの世界を飛び出し、職場に登場しないことを願うばかりです。

出典元:日本経済新聞・厚生労働省・法務省