【相模原事件から1年、障がい者の心に残る傷跡】

2017年12月12日
オルタナ

2016年7月に神奈川県相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」で起きた大量殺人事件。この事件は、被害者やその関係者だけでなく、報道を見ていた障がい者の心にも、深い傷跡を残したようだ。300人以上の障がい者へ事件の印象を聞いた調査では、報道について「関心を持って見ていた」と答えた人が86%に及んだ。障がい者の声の一部を紹介する。

同事件は、元施設職員だった26歳の男が津久井やまゆり園に侵入し、入所者19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせた。犠牲者の数の多さから戦後最悪の殺人事件として世間を騒がした。容疑者の男は、警察の取り調べに対して、「障がい者は生きている意味がない」という趣旨の供述をし、波紋を広げた。

事件が起こったのは、障がい者に対する差別を禁止した法律「障害者差別解消法」が施行された2016年4月から3ヶ月後のこと。このように差別や偏見を拭おうとする法律ができる一方で、まさに差別を象徴するような事件が起こったのである。この事件を、障がい者はどう捉えていたのか。障がい者の就労支援などのソーシャルビジネスを展開するゼネラルパートナーズ(東京・中央)が、調査を行った。身体・精神・知的障がい者326人にインターネットで行ったその調査では、多くの悲痛な声が寄せられている。下記がその声の一部。

「障がい者は必要ない」という容疑者の言葉に、匿名のネットユーザーの人たちが賛同していて胸が苦しく辛かった。婚約者や友人、支援者のように温かい目で見守ってくれる人たちが、私たちにはまだまだ少ない気がして、悲しい気持ちでいっぱいになった (20 代/女性/精神障がい)

もしも犯人が同じように身体の一部が悪くなっていたなら、少しは気持ちが分かったのではないか。人間は同じ状況にならなきゃ分からない 部分が沢山あると思います(50代/男性/身体障がい)

障がい者に対する偏見の縮図だと感じた(30代/男性/身体障がい)

事件は起こさないまでも、障がい者はこの世から消えた方がよいと真剣に思っている人が実際に少なからずいることを知っているので、あってはならない事件だけれども、起こりうる事件だったと、半ば冷静に見ていた(40代/女性/身体障がい)

加害者のあまりにも身勝手な犯罪に激しい憤りを覚えました。また日本でこんな悲惨な事件が起こったことに衝撃を覚えたと同時に、社会の寛容性が無くなった結果が生んだ悲劇だと思いました(60 代以上/男性/身体障がい)

犯人の間違ったメッセージが垂れ流しのように報道され、それに感化される人が出るのが不安だった(50代/女性/精神障がい)

犯人も統合失調症と言われており、自分と同じ病気なので、別の意味で偏見が怖い(40代/女性/精神障害)

このように、報道を見て、多くの障がい者の心に深い傷跡が刻まれたことが分かった。また、この事件が原因で、障がい者への偏見がさらに助長することを不安視している様子もうかがえる。

同社では、前述の「障害者差別解消法」が施行されたことによる影響についても調査を実施している。それによれば、約9割の障がい者が、法律の施行後も差別・偏見は「改善していない」と答えた。このように、法律がつくられるだけでは十分な効果は上がっていないことが明らかになっている。

誰もが支え合い共生できる社会を実現していくためには、このような事件の記憶を風化させることなく、どうすれば差別・偏見を解消していけるかを、社会全体で考えていく必要があるだろう。

ユニオンからコメント

障害者の就職・転職サービス運営会社が実施したアンケート調査の結果が公表されました。

【ご参考】【~浸透しない障害者差別解消法~】株式会社ゼネラルパートナーズ(PDF:1MB)

アンケートでは、56%の人が「職場で差別・偏見を受けたと感じる」と回答しています。
「合理的配慮」に関する質問でも、法改正で「受けやすくなったとは思わない」と回答した人が84%に上りました。職場に関する質問に次のような回答が寄せられています。

■LDを理解してもらえず、職場で帰れとか、死ねと言われた。(40代/女性/精神障がい)

■ケアレスミスが多いこと等が理由で、事務所での扱いが雑になり、最終的には解雇された。(20代/女性/精神障がい)

■以前の直属の上司から精神疾患を公開して雇用されているにも関わらず機嫌の悪い時に嫌味や契約更新時にも暴言モラハラを受けた。(60代以上/女性/精神障がい)

■以前の会社で障がい雇用で採用されたが、受け入れ部門が障がい雇用に前向きではなく、暴言を言われて、1年で契約満了された。(40代/女性/身体障がい)

障害者差別や偏見を受けたと感じた時でも、47%の人が「誰にも相談していない」と答えています。このような状況に苦しんでいる人は、気軽にソーシャルハートフルユニオンへ相談してください。一緒に対応策を考えていきましょう。

「相模原事件」について寄せられたコメントを紹介します。

■「障がい者は必要ない」という容疑者の言葉に、匿名のネットユーザーの人たちが賛同していて胸が苦しく辛かった。 婚約者や友人、支援者のように温かい目で見守ってくれる人たちが、私たちにはまだまだ少ない気がして、悲しい気持ちでいっぱいになった(20代/女性/精神障がい)

■犯人の間違ったメッセージが垂れ流しのように報道され、それに感化される人が出るのが不安だった(50代/女性/精神障がい)

■同じ障がい者として許せない事件だと思いました。もしかしたら自分が、と思うだけでゾッとします(50代/女性/身体障がい)

■心が傷んで鬱が再発しそうになった(30代/男性/精神障がい)

■障がい者が死んで家族も楽になったのでは、といった意見がネットで散見され、暗い気持ちになった(20代/男性/精神障がい)

■同じ人間なのに、障がいがあるというだけで排除しようとするなんてあってはならないこと(50代/女性/身体障がい)

■加がい者のあまりにも身勝手な犯罪に激しい憤りを覚えました。また日本でこんな悲惨な事件が起こったことに衝撃を覚えたと同時に、社会の寛容性が無くなった結果が生んだ悲劇だと思いました(60代以上/男性/身体障がい)

■障がいにも様々あるが、犯人も社会の見方も「障がい者=社会の役に立たない」と一括りに扱われており、憤りを感じた(40代/女性/精神障がい)

■ひどい、ひどすぎる。障がいを持つ僕たちは、精一杯毎日を必死に生きている。殺すなんて最低で、ありえないと思った(20代/男性/知的障がい)

■すべての障がい者が不幸だとは決して思わない。生きてる価値がない、役に立たない人間は、この宇宙には一人もいない(50代/女性/身体障がい)

■もしも犯人が同じように身体の一部が悪くなっていたなら、少しは気持ちがわかったのではないか。人間は同じ状況にならなきゃ分からない部分が沢山あると思います(50代/男性/身体障がい)

■障がい者に対する偏見の縮図だと感じた(30代/男性/身体障がい)

■障がいの種類は違うが、障がいを持つものとして一人の人間と扱ってもらえない社会があることを改めて実感した(50代/女性/身体障がい)

■障がいへの偏見から、殺人まで起こしたことに驚きました。殺人まで行かないとしても、ひどい偏見を持っている人は身近にたくさんいそうで怖くなりました(40代/女性/身体障がい)

■容疑者が「障がい者なんかいなければいいんだ」と発言したのを知って、自分のことを言われた気がした(50代/女性/精神障がい)

■血税の恩恵を受けている私にとって、犯人の語っていたことが自分のことを言われているようでした。殺人や傷がいに至らなくても、健常者の一部の方も犯人と同じような気持ちを持っているのではないかと、その考えを否定しようと色々な記事を見ました(50代/男性/身体障がい)

■とても凄惨な事件でした。あってはならないことですし、思想も間違っています。しかし多くの人は同感できるのではないかと、勝手に考えています(60代以上/男性/精神障がい)

■事件は起こさないまでも、障がい者はこの世から消えた方がよいと真剣に思っている人が実際に少なからずいることを知っているので、あってはならない事件だけれども、起こりうる事件だったと、半ば冷静に見ていた(40代/女性/身体障がい)

■障がいを持つまで、障がい者の事には関心がありませんでしたが、障がいを持ったことによって、綺麗事ではすまされない部分があることを理解しました。障がい者と関わったことで大変な思いをされた方たちは、どこにその思いをぶつければよいのでしょう。命を奪う方向性にぶつけてはいけないけれど、障がい者と関わる人たちの心のケアをすることにも力を注ぐ必要がある気がします。一生障がいを負うというのは、本人が一番つらいのでしょうが、周りの人たちも大変な思いをしながらお世話をしていることを忘れてはいけないと思います(50代/女性/精神障がい)

■周りに迷惑をかけていないだろうか?治らない障がいを抱えて生き続ける理由があるのか?などと、考えることが増えた(50代/女性/身体障がい)

■障がい者施設に勤務をする方は、人並み以上に障がい者に対して寛容だと思っていた。事件の犯人がずっと障がい者に対して偏見を持っていたのか、それとも施設で働いたことで障がい者の実態に触れ、それが自分の予想をはるかに越えていたことで障がい者に対する偏見を強めていったのか…犯人が障がい者に対する偏見を持つようになったきっかけは何だったのかについて関心を持って見ていた(50代/男性/身体障がい)

■犯人も統合失調症と言われており、自分と同じ病気なので、別の意味で偏見が怖い(40代/女性/精神障がい)

【<精神保健福祉法>改正案が廃案に】

衆院が28日、解散されたことで、昨年7月に起きた相模原市の障害者施設殺傷事件を受け、措置入院患者への支援強化を盛り込んだ精神保健福祉法改正案が廃案になった。厚生労働省は改正案の再提出を検討しているが、野党や障害者団体から改正案への批判が上がっており、衆院選の結果次第では内容が大幅に変わる可能性も出ている。
殺人罪などで起訴された植松聖被告(27)は事件前、措置入院していたが、退院後、行政などから十分な支援を受けていなかったとする指摘を踏まえ、改正案は措置入院した患者が退院後も継続的な支援を受け、社会復帰できるよう、関係自治体や医療機関、警察などが連携する仕組みを設けることを柱とした。しかし野党や障害者団体は「監視強化につながる」と反発。5月に参院は通過したものの衆院は審議入りもできずに継続審議となっていた。(2017年9月28日 毎日新聞)

出典元:オルタナ・株式会社ゼネラルパートナーズ・毎日新聞