【法定雇用率引き上げ 障害者賃金、公費で補填を】

2017年9月23日
朝日新聞

厚生労働省は5月末、一定割合以上の障害者を雇用することを事業主に義務づける障害者の法定雇用率を段階的に引き上げると発表した。身体障害者、知的障害者に加え精神障害者も雇用率算定の対象とし、現在の目標2.0%を来年4月から2.2%に、2020年度末までに2.3%に引き上げるというものだ。

障害者雇用の目標引き上げは望ましいが、現実は厳しい。
昨年6月時点で、2.0%を達成しているのは従業員1千人以上の企業では59%だが、20~100だと46%にとどまる。年ごとに改善されているとはいえ、特別支援学校高等部卒業者の就職率は約30%にすぎず、ハローワークでの障害者の職業紹介状況を見ても、就職希望者の60%弱しか職に就けない。

現状を踏まえれば、障害者の雇用拡大を事業主に働きかけるだけでは十分な効果は期待できない。雇用に際して賃金や職場環境などで課題が大きいからであろう。課題解決のため新しい発想をもとに提案したい。

まずは賃金の問題だ。現状では障害者が最低賃金の除外対象となることも多いが、原則として全障害者に対して最低賃金を保障する。そのうえで、客観的な労働評価が最低賃金額に達しない場合、公的支出により差額を補う制度を創設してほしい。労働評価は、障害者本人の意向を踏まえ、事業主と、ハローワークや障害者職業センターで就労支援に携わる職場適応援助者(ジョブコーチ)が担うことが考えられる。

障害の程度によっては、就労できずに生活保護の対象となった方が、就労時より実収入が多いケースもあり、賃金の公的補填(ほてん)と生活保護の関係については詳細な検討が必要になる。それでも、障害者の雇用と生活保障、社会参加の視点から検討の価値はあると考える。

もう一つ、職場環境の改善について提案したい。障害者が働く職場では事業主に合理的な配慮が求められており、働きやすいように職場を改善することが不可欠だ。設備の改修が必要となることもある。助成金制度が設けられているものの、手続きが煩雑で、助成金額が改修に必要な額より大幅に少ないという現場の声も聞く。この制度の改善を望む。

同時に、障害者は複雑な作業工程を苦手とすることも多く、事業主は仕事の内容を可能な限り分かりやすく単純化する工夫も求められる。障害のある人が働きやすい環境は、障害のない人にも働きやすい環境であることを忘れないでほしい。

安倍内閣は主要政策に「働き方改革」を挙げ、女性も男性も、若者も高齢者も、障害者も難病者も、各自のニーズにあった納得のいく働き方を実現するという。素晴らしい目標が看板倒れにならないよう障害者の雇用促進を期待したい。

ユニオンからコメント

『私の視点』というタイトルで、川上輝昭名古屋女子大学特任教授(障害福祉)が朝日新聞に寄稿した記事です。

障害福祉の専門家からの意見として、障害者雇用を拡大するための施策は、現状では不十分である。課題を解決する提案として、「障害者雇用に最低賃金を一律保障し、業無能力が劣る場合には、差額を公的支出で補う制度の創設」、「助成金制度の改善案として、手続きを簡素化し、増額せよ」ということです。

障害者がより就労しやすくするために、より税金を使えということのようですが、「障害者や福祉を食い物にしている」と言わざるを得ない悪質事業者にとっては、新たな収益の抜け道が用意されたと考えるでしょう。障害者雇用に福祉的なフォローは不可欠ですが、障害福祉サービスとして、運営を税金に頼ることが質の低下を招いているのも事実です。

【障害者就労支援に実績反映 質向上へ報酬に差】

各地で障害者の大量解雇が相次いでいる障害者の就労支援事業について、厚生労働省は13日、障害者の賃金水準や活動実績に応じて、事業所に支払う報酬額に差をつける方針を固めた。質の向上を図るのが狙いで、来年4月の報酬改定で実施する。
問題となっているのは、障害者が働きながら技能を身につける「就労継続支援A型事業所」。
全国に約3600カ所あり、本来は自らの事業の収益で障害者に賃金を支払う仕組みだが、国の給付金を賃金に充てているケースがある。厚労省は今年4月の省令改正で、給付金の充当を原則禁止。7月以降、経営悪化を理由に岡山県倉敷市や高松市、名古屋市で障害者の大量解雇が相次いでいる。(2017年9月14 毎日新聞)

【ご参考】【第9回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」資料】厚生労働省

就労移行支援サービスを利用する障害別の状況を見ると、身体・知的障害者の利用割合が減少傾向なのに対し、精神障害者の利用割合が増加していて、全利用者の5割以上を占めるまでになりました。一方、就労が長続きしない実態もあり、職場定着が解決すべき課題に挙げられています。そこで、新たに「就労定着支援」というサービスが始まるようです。

この新サービスの報酬を巡る議論では、「障害者本人の来所」、「電話等」により、「月〇回程度の面談等の実施」で基本報酬を1か月あたりの定額としてはどうか等の意見も出されています。悪い言い方をすると「月1回、電話をすれば報酬をもらえる」ようにしろと聞こえます。制度本来の趣旨に沿った税金の使われれ方になっているか、たまには利用者からの声も聞くべきでしょう。課題の解決に性善説で立ち向かえば、いつまでも悪質事業者を排除することは出来ません。

【就労定着支援の障害報酬は成果主義】

厚生労働省は13日、障害者総合支援法に基づく新サービス「就労定着支援」の障害報酬について、企業などへの一般就労後の定着実績に応じて区分する考えを明らかにした。支援の開始は障害者が就労してから半年後とし、そこを起点に1年後の職場定着率を指標とする。「就労定着支援」は18年4月からの新サービスで、既存の就労系サービスを利用した後に一般就労した障害者に対し、遅刻や欠勤をしないよう生活面のサポートをするもの。支援期間は最長で3年間。近年、特に精神障害者の一般就労が急増する一方、すぐに離職する例が多いことから職場定着が大きな課題となっている。
同日の会合では、報酬を月額の包括報酬としつつ、「月1回程度の面談の実施」などを運営基準に盛り込むことを論点に挙げた。なじみの人間関係により継続支援することを重視するため、就労定着支援の担い手は既存の就労系サービス(就労移行支援、就労継続支援A型、B型など)を提供している事業者とする方針だ。(2017年9月25日号 福祉新聞)

出典元:朝日新聞・毎日新聞・厚生労働省・福祉新聞