【有期→無期雇用「転換逃れ」に注意 5年ルール、本格スタート】

2018年4月2日
朝日新聞

有期の雇用契約を繰り返し更新して通算5年を超えると、無期契約への転換を求めることができる「5年ルール」が今月、本格的にスタートした。企業が無期転換を免れようとする動きが出てくる可能性があり、専門家は注意を呼びかけている。

■3月で打ち切り・賃金減・・・大学などで問題化

日本大学のスポーツ科学部と危機管理学部で昨年11月、英語を教えていた非常勤講師15人全員が、大学から今年3月までで雇用契約を打ち切ると通告された。大学側は「カリキュラムの変更に伴うもの」と説明しているが、15人を支援する首都圏大学非常勤講師組合は「無期転換を逃れるための雇い止めだ」と反発し、契約の継続を求めている。

組合が「無期転換逃れ」だと主張するのは、大学側が2015年に、非常勤講師の無期転換について「今後の大学運営に支障をきたす可能性が大きい」と内部文書で指摘していたからだ。16年4月以降に採用された非常勤講師には任期5年の上限が設けられ、無期転換ができないようになっているという。

日大の非常勤講師はのべ約3600人。契約の打ち切りを通告された井上悦男さん(53)は「生活がままならなくなる非常勤講師も出ている」と話す。日大は「他学部では無期転換の権利を得る講師もいる。無期転換逃れではない」と説明している。

アンスティチュ・フランセ東京(旧東京日仏学院)でも、非常勤講師が加盟する労働組合と学院側が紛争状態になっている。学院側は17年7月、二つのタイプの契約を新たに提示し、9月に適用を始めた。一つは無期契約。もう一つは6カ月契約で、契約を更新されても4年が上限。無期契約になれば立場は安定するが、6カ月契約の方が授業一コマあたりの賃金が高い。

組合側は、新しい賃金体系では賃金が3割近く減ると主張。「無期転換を免れるのが目的だ」として、東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた。
学院を運営する在日フランス大使館のカトリーヌ・ウンサモン文化部次席参事官は「日本でフランス語を学ぶ学生が減っており、経営環境は厳しくなっている。財政状態を考慮しての判断だ。組合とは誠実に交渉している」と話す。

■対応する企業も

すでに無期転換に備えた対応をとった企業もある。
本州、四国で総合スーパー約400店を運営するイオンリテールには、時給制で半年契約のパートの「コミュニティ社員」が約10万人いる。うち9割が女性。今の契約は2月21日から8月20日まで。通算5年を超えて契約している社員は約5万人いるという。更新する期間に上限はなく、65歳まで更新できる。週あたりの労働時間は社員ごとに様々。月100時間、週20時間強の人が多いという。労働時間や業績、役職に応じて夏冬の賞与を出しているが、退職金は出ない。

4月1日以降、5年ルールの要件を満たす人が転換を申し出た場合、次の契約から無期化する方針だ。無期転換しても待遇は変わらない。今年2月の契約更新時に社員に説明し、就業規則に「申し出によって無期転換する」と明記した。
長谷川正史・人事部人事企画グループマネージャーは「対象はいずれも熟練しているメンバー。続けて働いてもらう方がメリットがある」と話す。

■疑問あれば相談

人手不足の影響で、大企業を中心に無期転換制度を整備して社員の確保に奔走する企業が目立つ。当初心配された大規模な雇い止めが頻発する状況にはなっていないが、学校や研究機関などを中心に、雇い止めの報告が少なくない。
日本労働弁護団が先月3日に全国一斉に実施した電話相談会には計103件の相談が寄せられた。岡田俊宏事務局長は、5年ルールを労働者が知らないために表面化していない雇い止めもあるとみている。「疑問を感じたら、弁護士や労働組合、労働局に相談して欲しい」と呼びかけている。

■無期転換をめぐる雇い止めの例 ※労働弁護団がまとめた類型を参考に作成

  • 「無期転換はできない」などと明確な理由なく雇い止めをする
  • 賃金の引き下げなどに応じなければ、無期転換を認めない
  • 「5年上限」などの制限を、一方的に就業規則に明記する
  • 契約更新の際に「次の更新はない」などの項目を盛り込む
  • 試験の合格や一定の勤務評価を無期転換の条件にする
  • 6カ月の空白で雇用期間がリセットされるクーリング制度を悪用。6カ月以上の空白期間を再雇用の条件にする
  • 財政が厳しいなどの理由をつけて雇い止めをする

ユニオンからコメント

2013年4月に施行された改正労働契約法に明記された「無期転換ルール」が始まります。このルールは「有期雇用で働く人たちから雇い止めの不安を取り除く」目的で作られたものですが、大手自動車メーカーのほとんどで「抜け道」を使っていたことが問題視されています。ルールの「抜け道」については、大手企業に限った問題ではありません。

【ご参考】【「無期転換ルール」と有期雇用契約の更新について】

【ご参考】【無期雇用 法改正、骨抜きに】

実際に、ユニオンへ相談に訪れる(有期雇用ではたらく)人の就業規則に「上限5年以内」と書かれているものが増えてきました。この問題では、会社に「上限年数」の撤廃を求めるのではなく、就業規則の上限規制に基づく雇止めを通告された時に、どう対処するかを検討していくことが実践的です。「そういう決まりだから」の一言で雇止めされないためには、はたらく人が様々な情報を身に付けておく必要があります。

例えば、多くの会社が障害者を雇用する時に申請して受給する「特定求職者雇用開発助成金(特開金)」が、自分の雇用で使われたかどうかは知っておくべき情報の1つです。
特開金の申請書には、「対象労働者を継続して雇用すること(対象労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用し・・・)が確実で(ある・ない)」という項目があります。

この項目では(ある)に〇を記入しなければ助成金を受給できませんから、ほとんどの会社が(ある)として申請しています。つまり、会社が特開金を受給している場合、労働契約法第19条2項の「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」に該当し、雇止めについて解雇法理が適用される可能性が残るということです。

他にも、会社が雇止めした労働者に発行する「雇止め理由書」に記載された理由が「就業規則第〇条に基づく」だけであれば、会社に「5年間だけ障害者を雇用した合理的理由」の説明を求めることができます。

就業規則とは会社が独自に定めるルールで、もちろんその会社に勤務する人は守らなければなりません。しかし、就業規則の内容が労働基準法や障害者雇用促進法の各条項に反してれば、その部分は無効とされます。障害者雇用促進法第5条と、就業規則の条項のどちらが合理的であるかが今後争われることになるでしょう。

2018年4月からは、無期転換ルールだけでなく精神障害者雇用義務化や同一労働同一賃金など、労働を取り巻く環境が少しづつ変わっていきます。はたらく側も、そのような環境の変化に「鈍感になってしまわない」準備が必要になっていきます。

出典元:朝日新聞