【厚労省ずさん調査 異常データ新たに117件】

2018年2月21日
毎日新聞

裁量労働制に関する厚生労働省のデータを巡り、問題となっている「2013年度労働時間等総合実態調査」に、同じ人の残業時間が1週間よりも1カ月の方が短いなど、異常な数値が新たに87事業場で117件見つかった。

立憲民主党の長妻昭代表代行が厚労省の資料を精査して発見し、21日の野党の会合で厚労省幹部が報告した。安倍晋三首相は国会で「データを撤回するとは言っていない」と答弁したが、データの信ぴょう性がさらに揺らいでいる。

また、これまで厚労省が「ない」と説明していたデータの基となる調査票が、20日に厚労省本庁舎の地下倉庫から見つかったことも判明。野党の指摘を受けて調べたところ発見されたといい、問題発覚後の調査の甘さが浮かんだ。

労働時間等総合実態調査では、全国の1万1575事業場を労働基準監督官が訪問し、その事業場の「平均的な人」に対して、1日▽1週間▽1カ月▽1年の残業時間を聞き取るなどして調べた。こうして一般労働者の1日の労働時間は9時間37分で、企画業務型裁量労働制の9時間16分よりも長いというデータを作成し、国会答弁に使っていた。

19日に厚労省が公表した資料を長妻氏が精査し、新たに117件の異常な数値を見つけて同省に指摘した。例えば、ある事業場では調査した人の1週間の残業が「25時間30分」だったが、1カ月の残業は「10時間」だった。別の事業場では、1日の残業が「12時間45分」だったが、1週間では「4時間30分」の人がいた。厚労省幹部は「誤記や入力ミスが考えられる」と説明している。

首相は14日にこのデータを引用した国会答弁を撤回している。20日の衆院予算委員会では「データを撤回すると言ったのではなく、答弁を撤回した」と説明したが、再びデータそのものに疑問点が浮上した形だ。

また、労働基準監督官が調査の際に回答を記入した調査票が厚労省本庁舎の地下倉庫で見つかっていた。当初、担当課のロッカーを調べたが見つからず、「ない」と判断していたが、野党の指摘を受けて確認したところ、20日になって地下倉庫で段ボールに入った状態で見つかったという。

調査票を巡っては、加藤勝信厚労相が14日の衆院予算委で「なくなっている」と答弁しており、野党は整合性を追及する構えだ。

ユニオンからコメント

厚生労働省が(労働政策審議会)に示したデータの多くに異常値が見つかったというニュースです。

優秀な厚生労働省の役人が「誤記や入力ミス」をすることはまずありませんから、裁量労働制拡大を目指す安倍政権のために、「裁量労働制で働いている人のほうが、普通に働く人より労働時間が短い」というデータをねつ造したと疑われても仕方がありません。

問題なのは、このようなデータを元に(労働政策審議会)の議論が進んでいた事実です。厚生労働省に設置されている(労働政策審議会)は、労働に関連する法案を事実上決定する大きな影響力を持った審議会です。この(労働政策審議会)の下に置かれている「障害者雇用分科会」は、障害者雇用に関する政策の実質的な最高意思決定機関です。

【首相、問われる答弁姿勢】

安倍晋三首相肝いりの「働き方改革」に、改めて疑問符がついた。20日の衆院予算委員会では、関連法案作成に関わる厚生労働省の労働政策審議会に説明不十分な調査データが示されていたことが発覚。首相は、自ら撤回した裁量労働制に関する答弁の責任を同省に押しつける姿勢を示した。法案の正当性だけでなく、首相の姿勢も問われる事態になりつつある。20日の衆院予算委では、首相が裁量労働制で働く人の方が一般労働者より労働時間が長いという調査結果を知りながら、1月29日の衆院予算委で触れなかったことが明らかになった。そもそも通常国会を「働き方改革国会」として関連法案の成立を最大のテーマに位置づけたのは、首相自身だ。(2018年2月21日 朝日新聞)

【労政審、政権方針を「追認」】

「すでに労政審で議論しており、その中では、労働時間などについての資料も含めて審議をしたと了解をしている」。安倍首相は20日の衆院予算委で、野党が求める法案の撤回や調査のやり直しを、こう言って突っぱねた。裁量労働制の拡大については労政審のお墨付きをもらっているから修正の必要はない――。これが政府の言い分だ。
裁量労働制の拡大は、経済界が要求していた規制緩和の一つ。13年6月に閣議決定された「日本再興戦略」に盛り込まれたものだ。12年12月に発足した第2次安倍政権は当時、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をぶち上げた。労政審の議論は13年秋から始まったが、政権の方針はその前から決まっていた。このため、当時の議論は結論ありきで進んでいた。
労政審は厚生労働相の諮問機関。有識者と労使の代表らで構成される。労働政策は政府だけが決めるのでなく、労働者側、経営者側の代表を加えた「3者構成」で決めるという国際労働機関(ILO)の原則にのっとった組織だ。労働法制を大きく変える時は通常、厚労省が必要に応じた調査を実施し、専門家が考え方を整理する。労政審では、その考え方を前提に議論が進む。政府は労政審のお墨付きを盾に、裁量労働制を巡る不適切データ問題の幕引きを図る構えだが、安倍政権の労働政策は、産業競争力会議や規制改革会議(当時)など官邸主導の会議が先に方針を決めることが目立つ。裁量労働制の拡大も、年収が高い専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度の創設も、事実上、政権が決めた結論を労政審が追認した格好になっている。(2018年2月21日 朝日新聞)

2017年12月25日に開かれた「第74回(労働政策審議会)障害者雇用分科会」で、「精神障害者雇用の特例措置」が決まりました。「障害者の定着状況について(障害種別)」というデータを元に、「知的障害や発達障害の場合に比較的安定しているのに対して、特に、精神障害については定着が困難な者が多い状況となっている」ことを理由に、特例措置が決定されました。

【ご参考】【障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案の概要】厚生労働省(PDF:388KB)

【ご参考】【精神障害者、雇いやすくする特例措置】

厚生労働省が示したデータを注意深く見てみると、「発達障害」と「精神障害」が区分けされていることに気づきます。現在、発達障害と診断された人の多くは精神障害者手帳を所持していますので、「精神障害」として就労しているはずです。「どのように分類できたのか」という視点で見ると、このデータにも不思議な点がみつかります。おそらく、吃音の人や自閉症で療育手帳を所持している人だけを「発達障害」とし、広汎性発達障害やADHDの人は「精神障害」と分類したのでしょう。精神障害者の雇用率カウント方法を変更するためだけに作られたデータなのかもしれません。

精神障害者雇用義務化に伴う雇用率アップに対応すべく、経団連からの圧力に負け、「手っ取り早く雇用率を達成しやすくする」必要に迫られていたのでしょうか。雇用率換算が2倍になっても障害者雇用助成金の減額は行われませんから、雇う側にとっては割安感が生れることになります。短時間就労で人件費が減れば、支払う給料が障害者雇用納付金(雇用率不足1人につき月5万円)に近づくことにもなります。

「雇いやすいから」「負担が少ないから」という理由で、週20時間労働の精神障害者募集ばかりになってしまえば、「週30時間以上働きたい」「給料で生活したい」精神障害者にとっては不利益でしかありません。仮に、都合のよいデータを(労働政策審議会)に示し、決定された特例措置であれば、裁量労働制の拡大と同じ構図になってしまいます。

安倍政権が「新しい経済政策パッケージ」で掲げている、「Society 5.0の社会実装と破壊的イノベーションによる生産性革命」にも、すべての労働者が不利益を被るかもしれない項目のほとんどに(労働政策審議会)の文字が登場しています。

―雇用関係によらない働き方について、来年度から、(労働政策審議会)等において、法的保護の必要性を含めた中長期的な検討を進める。
―労働者が一つの企業に依存することなく、副業・兼業を促進する。労働時間管理の在り方や労災補償の在り方等について、(労働政策審議会)等において検討を進める。
―解雇無効時の金銭救済制度について、可能な限り速やかに、(労働政策審議会)において法技術的な論点についての専門的な検討に着手し、所要の制度的措置を講じる。

【ご参考】【世界成長を上方修正】

今回、結果的に厚生労働省が「裁量労働制を拡大するために」都合のよいデータを作成して(労働政策審議会)に提供していたことがバレてしまいました。「策士策に溺れる」という言葉がしっくりくる事態です。一連の安倍首相の答弁を聞いていると、今後「すべての労働者を非正規化する」「金銭による解雇を認める」「高プロ制度の導入」についても、同じことを繰り返す予定だと宣言しているようにも聞こえてきます。

出典元:毎日新聞・朝日新聞・厚生労働省