【賃上げ・投資で法人減税 政府方針、実質負担25%に】

11月20日
日本経済新聞

政府は2018年度税制改正で、賃上げや設備投資に前向きな企業の法人税の実質的な負担を25%程度まで下げるしくみを導入する。高収益にもかかわらず賃上げや投資をしない企業は特別な減税措置を外し、政府が掲げる来年の春季労使交渉での「3%の賃上げ」に誘導する。ただ、賃上げ実現などに向けた部分的な税制の手直しにすぎず、日本の立地競争力強化に向けて抜本的な法人税改革を避けて通れない。

安倍晋三首相が「税制を含む大胆かつメリハリのきいた対策」を指示したのを踏まえ関係省庁が詰めを急いでいる。近く始まる与党の税制調査会で協議し、税制改正大綱に制度設計を盛り込む。

政府は法人実効税率を段階的に引き下げており18年度には29.74%になる予定だ。「実効税率」は基本的に国と地方の表面税率を足し合わせて計算するのに対し、様々な政策減税などを勘案した企業の法人税額が「実質負担」だ。今回の措置で実効税率は変わらないものの、政府の政策目的に沿った企業を選別して実質負担を下げる。

現行の「所得拡大促進税制」を見直す案が軸だ。賃上げした場合に一定額を法人税額から控除するもので、12年度の基準年から基本給に手当や賞与を加えた給与総額が一定割合増えていることなどが条件だ。15年度に中小を含め約9万件の利用があり、2700億円の減税効果があった。

18年度改正では3%以上賃上げした企業の税額控除を増やす方向。さらなる賃上げを促すため基準年を今の12年度ではなく例えば「前年度」などとしてルールを厳しくし、適用企業を絞り込む。

設備投資を増やした企業の減税も検討する。投資額が前年度に比べ増加した場合などを想定するが、機器の更新時期によって投資額が増減したり業界ごとの特性が強く出たりするといった問題もあり、制度を詰める。

課税所得が100億円の企業の場合、国と地方合計の法人税額は30億円弱だ。仮に25億円になれば税負担が2割近く減る。賃上げや投資によるコスト増をどこまで減税で相殺できるかが経営者の判断を左右しそうだ。

賃上げをしない企業に対するペナルティーも導入する。一定の条件を満たした企業の税を優遇する租税特別措置(租特)の一部を見直し、目標に達しなければ適用できなくする。

例えば研究開発費用の一部を税額控除する租特は、製薬会社や輸送機器などの製造業9千社が利用している。同様の企業向け租特は100件弱で、これらが適用されなくなると実質的に法人の税負担が増す可能性がある。

ただ一時的な業績悪化などで賃上げできない企業で税負担が増すとさらにリストラが加速する恐れもあり、具体的な制度設計で課題は多い。

中小企業への税優遇も拡大する。新規に導入した機械などには固定資産税が0.7%かかるが、これを18年度から3年間ゼロにする。16年度に1.4%から税率を半減したが、さらに深掘りして設備投資を促す。

ユニオンからコメント

政府が、給料を上げた企業の法人税負担を引き下げる制度を導入するというニュースです。

過去最高となった内部留保を、積極的に賃金や投資に回した企業を優遇し、消極的な企業は冷遇する「アメとムチ」の政策で、賃上げを実現し、個人消費の拡大につなげ経済の好循環を実現させるのが狙いのようです。

【賃上げ不十分なら税優遇停止、大企業に「圧力」】

政府は、特定の条件を満たした大企業に適用している法人税優遇措置について、賃上げや設備投資拡大が不十分な場合に停止し、実質的に増税する方向で与党と調整に入った。
企業が稼いだ利益の蓄積にあたる内部留保を賃上げや設備投資に回すよう、大企業に「圧力」をかける異例の税制となる見通しだ。
企業が支払う税を軽減する特別な優遇措置は計100以上ある。このうち、製品や技術の開発で試験や研究の費用を増加した企業の法人税を軽減する「研究開発減税」などについて、賃上げや設備投資が不十分な場合に適用しないことを軸に検討している。政府によると、研究開発減税は15年度、1万2287件活用され、適用額は6158億円。自動車大手や化学品メーカーなど大企業の利用が多い。(2017年11月19日 読売新聞)

【企業の内部留保、過去最高406兆円】

財務省は1日、2016年度の法人企業統計を公表した。企業が得た利益から株主への配当などを差し引いた利益剰余金(金融業、保険業を除く)は前年度よりも約28兆円多い406兆2348億円と、過去最高を更新した。日本の景気は回復基調を続けているが、企業のいわゆる「内部留保」は積み上がっている。
政府はため込んだ内部留保を設備投資や社員の賃金アップなどに使うよう求めているが、企業側は慎重な姿勢を崩していない。第2次安倍政権が発足した12年度以降、内部留保は約124兆円積み上がった。(2017年9月1日 朝日新聞)

【ご参考】【平成28年度 法人企業統計調査 概要】財務省(PDF:428KB)

一見すると、儲けを溜め込んでしまい賃金に回さない企業に対し、安倍政権が「アメとムチ」を駆使して賃上げを迫っているように見えますが、そもそも、会社の儲けは労働者がはたらいた結果もたらされるものです。そして、アメやムチに使われる原資も私たちが収めた税金です。

「給料を上げれば減税する」は、言い換えると「私たちの税金が形を変えて戻ってくる」ということになります。おそらく、安倍政権は来春に「3%の賃上げを実現した」と自画自賛するでしょう。声高にアピールしておいてから消費税を増税するのですから、また、私たちが払い戻すことになるのかもしれません。

納税や減税・優遇措置には、人件費などあらゆる事務的コストが膨大に費やされています。いっそのこと、最低賃金を全国加重平均で6%程度引き上げて900円にしてしまったほうが即効性が高く、無駄なコストも省けます。さらに、これからの物価上昇にも国民が対応しやすくなりますので、安倍首相の好きな「好循環を生む」ことになるはずです。急激な賃金アップに耐えられない中小零細企業には、これまで優遇措置に使われてきた巨額の税金を支援に回せば急場はしのげるでしょう。そして、大手企業は「何かあった時のために」内部留保をしているのですから、「何かあっても」きっと大丈夫です。

出典元:日本経済新聞・読売新聞・朝日新聞・財務省