【実質賃金、0.1%減=4カ月連続マイナス】

2017年11月7日
時事通信

厚生労働省が7日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、現金給与総額(名目賃金)の伸びから物価変動の影響を差し引いた実質賃金は、前年同月比0.1%減と4カ月連続のマイナスになった。ただ、基本給の伸びは引き続き堅調で、同省は「基調として賃金は緩やかに増加している」との判断を維持した。

基本給に残業代、ボーナスなどを合わせた現金給与総額は0.9%増の26万7427円と2カ月連続のプラス。このうち、基本給に当たる所定内給与は0.7%増の24万2143円。残業代など所定外給与は0.9%増の1万8913円、ボーナスなど特別に支払われた給与は11.6%増の6371円だった。 

ユニオンからコメント

厚生労働省が9月の「毎月勤労統計調査(速報値)」を公表したというニュースです。

【ご参考】【毎月勤労統計調査 平成29年9月分結果速報】厚生労働省(PDF:128KB)

ここ数か月間、実質賃金が伸び悩んでいることはユニオンでも紹介しました。「景気拡大には賃上げが必須である」と強く求める政府や日銀と、労・使代表の考え方に温度差があることが浮き彫りになっています。

【ご参考】【実質賃金0.1%減に下方修正】

【安倍首相の3%賃上げ発言に労使混乱】

安倍晋三首相が経済界に対し、「3%の賃上げ」への期待感を表明したことが波紋を広げている。労働組合の中央組織である連合は、大企業だけが賃上げすれば格差拡大が問題になるとして警戒感を示す。経団連は働き方改革で残業時間の上限規制が導入された場合の対応を先行させるとし、賃上げに関する議論は12月以降に先送りする方針だ。「官製春闘」とも呼ばれる首相からの経済界への賃上げ要請は5年連続だが、具体的な数値が示されたのは初めて。神津里季生会長は「お上が音頭をとれば素直に3%の賃上げに向かうという発想は、大企業だけが対応でき、中小企業などはついていけず、格差拡大を繰り返す」と批判。一方、経営側は首相の要請を受けても、すぐに議論に入るのが困難な状況だ。経団連は、働き方改革で導入が見込まれる残業の上限規制への対応策の検討が喫緊の課題となっているからだ。残業規制が導入された後も、子育て関連手当の拡充や残業時間にかかわらず一定の残業代を支払うなどして給与水準が維持できるような制度を検討しており、対応策の検討を優先させる考えだ。(2017年11月6日 産経新聞)

【日銀、景気拡大でも緩和策の継続強調 米欧との違い鮮明に】

日本経済の拡大が続き、欧米の中央銀行が金融政策の正常化に踏み出す中でも、日銀は短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度とする現在のイールドカーブ(※)を堅持し、緩和効果の強まりを待つ姿勢を鮮明にしている。米連邦準備理事会(FRB)は、利上げの継続とともにバランスシートの縮小にも着手。金融正常化に踏み出した米欧中銀に対し、大規模緩和の継続を強調する日銀のスタンスが際立っている。

■米欧に比べ根強いデフレ心理

31日の会見で、黒田東彦日銀総裁が指摘したのは、曲がりなりにも物価が1%台半ばから後半で推移する米欧と、1%にも満たない日本との違いだ。黒田総裁は、1998年から2013年までの「長いデフレ」で醸成された日本社会に内在するデフレマインドの作用にも言及。「成長予測がしっかりしていれば投資、人員採用、賃金引き上げがあり得るが、低成長デフレが続き、なかなか将来について強い期待が持たれていないのかも知れない」「そういった将来の成長期待がもう少ししっかりしてくると、投資、採用、賃金引き上げ、価格も上がるが、まだそこまで至っていない」と述べた。現在の超緩和策を続けることで、賃金―支出―物価へのメカニズムが、いずれ働き出すとの強い期待感があり、黒田総裁は「賃金の上昇圧力は高まっている」と述べた。

■物価上昇へ、一段と賃上げ重視

日銀が物価上昇への大きな要素として期待しているのが、来年の春闘だ。総裁は会見で、人手不足が鮮明になっているにもかかわらず、賃上げが鈍い理由を問われ、日本経済の将来の成長期待が十分に高まっていないことに加え、「日本の労働市場が正規と非正規で分断されていることがある」と説明。春闘について「前向きな取り組みがあることを期待している」と表明した。遅ればせながら、日銀が金融政策正常化へ方向性を見出せるのかどうかは、来年の春闘が最初の関門になりそうだ。(2017年10月31日 ロイター)

(※)イールドカーブとは、金融用語で、縦軸に金利(利回り)、横軸を期間として、期間に対応する利回りをグラフに描き込み、その点をつなぎ合わせて描かれる利回りと期間の関係を表す「利回り曲線(金利曲線)」のことを言います。

2018年4月1日に施行される「無期転換ルール」でも、政府と経済界の温度差が表面化しています。ルールの趣旨に沿わない運用がされている場合、法改正も視野に入れ「しっかり啓発・指導していく」と異例の発表がされました。

【ご参考】【無期雇用 法改正、骨抜きに】

【車大手の無期雇用回避、実態調査を開始】

トヨタ自動車やホンダなどの大手自動車メーカーが期間従業員の無期雇用への転換を免れている問題で、加藤勝信厚生労働相は7日、実態調査を始めたことを明らかにした。6日付で大手メーカー8社の本社がある6都府県の労働局に指示した。「(労働契約法が定めた)無期転換ルールの趣旨を踏まえて適切に対応する」という。閣議後の記者会見で明らかにした。このルールは契約終了後から再雇用までの「空白期間」が6カ月以上あると、それ以前の契約期間はリセットされて通算されない。大手8社は、空白期間を以前より長い6カ月に見直すなどして適用を回避している。加藤氏は「必要であれば法を見直す」とも述べた。(2017年11月7日 朝日新聞)

【ご参考】【平成29年11月7日厚生労働大臣記者会見概要】厚生労働省

賃金や無期転換ルール、いずれの問題にしても対立が際立てば議論が深まるでしょう。どちらも労働者の生活や健康にとって重要な課題です。立場の違いを乗り越えて、冷静で丁寧な議論が行われることに期待しています。

出典元:時事通信・厚生労働省・産経新聞・ロイター・朝日新聞