【<働き方改革案>連合の要請反映 厚労省】

2017年9月4日
毎日新聞

厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会が4日開かれ、荒木尚志分科会長(東大教授)は労働基準法改正を含む「働き方改革関連法案」の要綱を8日の次回分科会に示すよう求めた。

これを受け厚労省は、連合が7月13日に安倍晋三首相に要請した修正内容を100%反映した要綱を提示する。

厚労省は、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」に年間104日以上の休日取得を義務化する▽裁量労働制の対象を営業職全般に拡大しない▽新卒者を対象としない――など、連合の要請を要綱に盛り込む。

政府は今月下旬に召集される臨時国会に(1)残業時間の上限規制(2)高プロ導入(3)裁量労働制拡大――をセットにした関連法案を提出する意向だが、民進、共産両党と連合は残業規制のみ賛成し、2015年から継続審議中の高プロなどに反対している。

ユニオンからコメント

労働関連法の改正案に連合が要請した内容が盛り込まれるというニュースです。

【ご参考】【第139回労働政策審議会労働条件分科会】厚生労働省

【ご参考】【「労働基準法等の一部を改正する法律案」について】厚生労働省(PDF:388KB)

記事を読むと、「連合の要請を100%反映して=丁寧な手続きを経て」とも読めますが、本当にそうなのでしょうか。要請が反映されたと報じられている連合では、この分科会に出席した委員の「議論を聞いていると、本当に長時間労働を是正するつもりがあるのか疑問を持たざるを得ない」という発言が公開されています。

【ご参考】【連合ニュース 2017年9月4日】日本労働組合総連合会

確かに、連合の神津会長もメディアのインタビューに「長時間労働をめぐって、真逆のものを一つの労基法改正という法案で決めようとしているなんて冗談じゃない。だから一貫して反対しているのです。無理に法改正する必要はない」と答えています。

【ご参考】【「過労死等に関する調査報告書」を公表します】

【労基法改正 働き過ぎ是正が優先だ】

長時間労働をただす規制の強化と、一部の働き手を規制の対象外にする制度をつくることが、どう整合するというのか。働く人が望む改革と一緒にすれば押し通せる。政府がそう考えているのなら言語道断だ。二つを切り離し、まずは長時間労働の是正を急ぐべきだ。
そもそも安倍政権の目指す「働き方改革」とは何なのか。正規・非正規といった働き方の違いによる賃金などの格差を是正し、底上げをはからなければ消費の回復もおぼつかない。出産や子育てがしやすく、家族の介護をしながら働き続けられる環境を整えないと、少子高齢化社会を乗り切れない。そんな問題意識が出発点で、安倍首相も「働く人の視点に立った改革」を強調してきたはずだ。一方、高プロ創設などの規制緩和は経済界が要望してきた。首相が「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げるなか、労働者代表のいない産業競争力会議が主導し、審議会での労働側の反対を押し切って法案化された。いわば「働かせる側の視点に立った改革」だ。残業代の負担という歯止めがなくなり、長時間労働が助長されないか。いったん導入されたら対象が広がらないか。疑問や懸念は根強く、徹底的に議論することが不可欠だ。「働く人の視点に立った改革」を進める気があるのか。政権の姿勢が問われる。(2017年8月31日 朝日新聞)

「過労死を防ぐ」ための長時間労働規制とセットにして、強引に押し切ってしまおうというのが安倍政権の思惑なのでしょう。さらに、「容認から一転して撤回」と報道された、連合内部の騒動がうまく利用されてしまった感もあります。2018年4月からの法改正は、連合や野党がどのように反対しても実現するはずです。

連合は、改正後を見据えたシミュレーションや対応策についての議論を今から始めるべきでしょう。例えば、「高プロ」では年間103日以下しか休ませなかった企業、「裁量労働制」では新卒者・営業全般まで対象にした企業、そのような企業名を連合のホームページで公開し、抗議デモを行う。少し過激と思われるくらいの行動方針を打ち出すことが、経営者側に「ルールを守らなければ」の意識を芽生えさせるはずです。

一つ、今回の改正案で示された「(平成22年4月から中小企業が猶予されてきた)月60時間を超える残業代の割増率50%以上への引上げ」が3年後に実施されることは、多くの労働者にとって吉報です。

これは、労働基準法第37条で規定されている「延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」が、中小企業は特例で免除されていたのですが、3年後に廃止されるということです。

つまり、中小企業を存続させるために、そこに勤める従業員は(法律で定められた)正当な残業代を受け取れていなかったのですから、当然と言えば当然の決定です。中小企業経営者らからは「まだまだ経営が苦しい」といったお馴染みの声が上がるかもしれませんが、これまで多くの(猶予・特例・助成)といった恩恵を受けてきたことは紛れもない事実です。いずれも事業主への保護施策で、労働者保護の視点は見当たりません。中小企業で人手不足が深刻なのは、このようなことに原因の一端があるのでしょう。

【ご参考】【事業主の方のための雇用関係助成金】厚生労働省

【政府、交際費課税の特例措置2年延長へ】

政府は22日、取引先との接待や懇談などで使う交際費の一部を経費(損金)として認めて税負担を減らす特例措置について、平成29年度末までだった適用期限を、31年度末まで2年間延長する方向で検討に入った。引き続き企業に飲食店などでの接待を促し、消費の拡大を通じて経済活性化を図る方針だ。政府は25年度税制改正で、資本金1億円以下の中小企業に限定して交際費を損金に算入する制度を拡充し、従来は「交際費の9割、最大600万円まで」だったのを、「交際費全額を最大800万円まで」損金として算入できる仕組みとした。さらに、26年度税制改正では、新たに資本金1億円超の大企業も対象に含めて、上限なしで交際費の50%まで損金算入できる仕組みも導入した。中小企業は両者のうち有利な方を選べるようにした。損金は法人税を計算する際に収益からコストとして差し引けるため、損金に算入できる範囲が広がると課税対象となる所得が減り、税負担が軽くなる。(2017年8月23日 産経新聞)

出典元:毎日新聞・厚生労働省・日本労働組合総連合会・朝日新聞・産経新聞