【労基監督官100人増員 来年度方針 残業規制導入にらみ】

2017年8月23日
産経新聞

政府が、長時間労働や賃金未払いなどを調べる労働基準監督官を来年度、100人増員する方針を固めたことが22日、分かった。

厚生労働省が来年度予算の概算要求に関連費用を盛り込む。政府は働き方改革の一環として罰則付きの残業規制を設ける方針で、違法な長時間労働の取り締まりに向け体制を強化する。

厚労省によると、平成28年度末、監督官の定員は計3241人。
大手広告会社の電通の違法残業事件などを受け、29年度も50人増員した。ただ、全国の事業所は400万カ所超で、監督を実施するのは毎年全体の3%程度にとどまり、慢性的な人員不足が指摘されている。

厚労省は27年、東京、大阪の労働局に監督官で構成する過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)を設置して電通などを立件、対策を進めてきた。
だが、最長で「月100時間未満」などとされる残業時間の上限規制が導入されれば、企業に対してよりきめ細かい監督や指導が求められる。

監督機能の強化をめぐっては、政府の規制改革推進会議が今年5月、監督官の業務を補完するため、業務の一部を民間に委託する提言をまとめている。
対象業務として、実態把握のため労働時間上限の順守状況などに関する調査票を各事業所に送って回収することなどが検討されている。

ユニオンからコメント

労働基準監督官を大幅に増員する方針が決まったというニュースです。

労働基準監督官とは、労働者の権利や安全を守る国家公務員です。会社が労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法などに違反していないかを調査し、予告なしに立ち入り調査する権限が与えられ、悪質な事案では特別司法警察員として、捜索・差し押さえ・逮捕などの強制捜査を行う権限を持っています。

違法な長時間労働など、多くの会社が「人手不足」を理由に不法行為を行いますが、それを取り締まる側の労働基準監督官が「人手不足」というのは笑うに笑えない実態です。

【人手不足が慢性化、労基監督官を100人増員へ】

政府は来年度、労働基準監督署の専門職員である労働基準監督官を100人増員する方針を固めた。政府は罰則付きの残業規制の導入を目指しているが、企業の調査などを行う監督官は人手不足が慢性化している。過去最大規模の増員で監督体制を拡充し、長時間労働の是正につなげたい考えだ。16年度時点で、全国321の労基署に3241人が配置されているが、労働者1万人当たりの監督官数は0.62人で、ドイツ(1.89人)、英国(0.93)など欧州の先進国より少ない。(2017年8月22日 読売新聞)

労働基準法に違反した長時間労働や賃金未払いについて、「働き方改革の一環」というキーワードを交えた説明がよく見られますが、単に「企業による不正行為が減っていない」に過ぎません。「政府は罰則付きの残業規制の導入を目指している」ようですが、肝心の罰則について議論されることがありません。まるで監督官の人手不足が原因であるかのように、業務の民間委託や大幅増員に議論が偏りがちになっています。

【ご参考】【労働監督の民間委託提言】

厚生労働省が公表した未払い残業代は、およそ10万人分の127億円以上だったことが確認されました。運送業や旅客業に対する調査では82.9%の会社で違反が確認されています。この状況を改善するには取締り強化が喫緊の課題ですから、監督官の増員は大いに歓迎すべきでしょう。それと同時に、労働基準監督署の調査が入らなくても会社が違法行為をしなくなるような、実効性の高い施策を検討していくべきです。

【ご参考】【平成28年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果を公表します】厚生労働省

【ご参考】【自動車運転者を使用する事業場に対する平成28年の監督指導、送検等の状況を公表します】厚生労働省

働き方改革は「多様な働き方を可能とするとともに、格差の固定化を回避し、働く人の立場・視点で」取り組むと安倍政権は表明しています。この一文に沿って、非正規労働者の待遇改善や同一労働同一賃金が導入されれば、これまで以上に労働基準法に違反せざるを得ない会社が増えてしまうかもしれません。政府は、非正規労働者への賃金アップに応じる体力が乏しく残業頼りの中小企業対策として、さらに助成金を出すことを決めました。

【ご参考】【働き方改革の実現】首相官邸

【中小企業の働き方改革、政府が助成へ】

中小企業の働き方改革の実現に向けた政府の支援策の全容が明らかになった。長時間労働の是正や多様な人材の就労を後押しする助成制度を充実させるほか、非正規労働者の待遇を改善する「同一労働同一賃金」への対応を促す。国内雇用の7割を占める中小企業は、時間外労働の上限などへの対応で大企業に後れをとっている。助成金の拡充などで中小企業の負担を減らし、働き方改革の浸透を図る。(2017年8月23日 読売新聞)

【残業規制の中小企業に助成=都道府県に「働き方改革」支援施設】

働き方改革の実現に向け、厚生労働省が2018年度概算要求に盛り込む主要施策が22日、明らかになった。時間外労働に上限を設ける中小企業に新たに助成を行うほか、非正規労働者の処遇改善や過重労働防止の方策をアドバイスする「働き方改革推進支援センター」(仮称)を全都道府県に設置する。「同一労働同一賃金」の実現に向けた施策では、正規、非正規にかかわらず共通の賃金規定や諸手当制度を導入する企業に対し、対象人数に応じて「キャリアアップ助成金」の支給額を加算する。(2017年8月22日 時事通信)

【ご参考】【「働き方改革」推進の取組例(交付金、補助金等の活用事例含む)】首相官邸(PDF:644KB)

安倍首相のいう「働き方改革」は、中小企業に交付金や助成金を手厚くして、違反を取り締まる公務員を増やさなければ実現しないようです。「会社に違反行為をさせない」視点と、「働く人の立場・視点」が欠けているとの印象を受けます。

そもそも「働き方改革」とは、何となく格好いいフレーズだからと利用し、実態は「労働関連法の見直し」だったのでしょう。数か月後、「助成金の不正受給」というニュースが報道されないことに期待しています。

【アベノミクス 国民の不安に向き合え】

「最優先すべきは経済の再生」「アベノミクスをさらに加速させてもらいたい」内閣改造後の記者会見で、安倍首相はそう強調した。「またか」と聞いた人も少なくないだろうが、ここは経済政策への基本的な姿勢を問いたい。景気をよくすることは大切だが、国民が求めているのはそれだけではない。
安倍首相は2012年に政権に返り咲くと、大胆な金融政策、機動的な財政運営、成長戦略の「3本の矢」で「経済政策を力強く進める」と宣言し、国民の期待を集めた。
しかし実際は、集団的自衛権の行使容認や安保関連法の成立、さらには憲法改正と、自らの政治的悲願の達成に力を注ぐ局面が目立った。批判が高まると、そのたびに「次は経済」と唱える。この4年半で見えてきたのは、政策の行き詰まりだ。
女性活躍、1億総活躍、働き方改革ときて、今度は「人づくり革命」だという。
こうしたかけ声のもとで必要な改革がいくつか進んだのは確かだが、それぞれの総括を欠いたままでは、アベノミクスの行き詰まりを取り繕うために目先を変えていると言われても仕方がない。国民が求めるのは新しい看板ではない。(2017年8月5日 朝日新聞)

【岐路の安倍政権 経済政策 いつまで「道半ば」なのか】

「三本の矢」に始まったアベノミクスは15年秋、「第2ステージに移る」と宣言して「新たな三本の矢」となった。希望を生み出す強い経済、夢をつむぐ子育て支援、安心につながる社会保障の3本だった。ほどなく「1億総活躍社会の実現」が掲げられ、そのための「働き方改革」が昨夏の内閣改造の目玉となった。14年秋から続く「すべての女性が輝く社会」と「地方創生」の政策目標も健在である。
こうしたスローガンを次々に打ち出し「道半ば」を演出しながら、時間稼ぎをしてきた4年半余だった。看板の具体化のため、さまざまな施策が展開された。だが、効果について検証した形跡はない。次は「人づくり革命」だという。いずれ看板がつけ替えられると多くの人は受け止めている。
この間、多額の税金が費やされた。12年末の「国の借金」は997兆円だったが、今年3月末は1071兆円に膨らんだ。消費税増税があったにもかかわらず、である。誰にこのツケを払わせるのか。人づくり革命の第一の対象となる将来世代だろうか。夢のない話だ。こうしたことを繰り返している限り、消費は伸びず、人々が結婚や子育てに慎重なのも当然と言える。今こそ、根本的な修正が不可欠である。(2017年8月10日 毎日新聞)

【内閣改造と経済 「道半ば」を脱するときだ】

もう「道半ば」という言い訳は通用しなくなる。4年半を超える安倍政権下で、多くの企業が収益を高め、雇用も大幅に改善した。それでも国民の多くが景気回復を実感できずにいる。アベノミクスの第3の矢である成長戦略が不十分なことは、繰り返し指摘されてきた。首相はそれにどう向き合うか。経済政策の足らざる部分を検証し、これを打開する具体的な政策こそが肝要である。政権に対する国民の信頼に揺らぎがみえる中、首相には、経済政策を政権浮揚の起爆剤にしたいという思いもあるだろう。
だがそれは「人づくり革命」などキャッチフレーズを掲げるだけでは果たせまい。新たな看板がバラマキを誘発するようでは、アベノミクスへの期待を減じる逆効果を招きかねないと厳しく認識すべきである。(2017年8月8日 産経新聞)

出典元:産経新聞・読売新聞・厚生労働省・首相官邸・時事通信・朝日新聞・毎日新聞