【経団連、AI活用を提言 国連の開発目標実現へ】

2017年6月28日
産経新聞

経団連が、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」実現のために、人工知能(AI)やビッグデータなどで快適な社会をつくる構想「ソサエティー5.0」を活用するとした提言を取りまとめることが27日、分かった。各国が抱える問題解決に最先端の技術を活用することを提案し、会員企業などに具体化の推進を呼び掛ける。

経団連が取りまとめるのは「ソサエティー5.0 for SDGs」。
2030年までに極度の貧困や飢餓を撲滅することなどを掲げるSDGsについて、「ソサエティー5.0が、課題解決と未来創造の視点を兼ねた成長モデルであり、達成に貢献する」とし、取り組みを国内外にアピールする考え。

ソサエティー5.0は、人類が歩んできた狩猟、農耕、工業、情報に次ぐ第5の新たな社会を技術革新によって生み出す変革で、政府の成長戦略にも盛り込まれた。

提言では、企業が事業を展開する中で、ソサエティー5.0を活用した取り組みを持続的に進めることが重要としており、経団連では今後、取り組み状況の調査や先進事例の紹介も進めていく考えだ。

SDGsには、気候変動対策や産業と技術革新の基盤づくり―といった課題もあり、解決に向けて国や企業、個人などが役割を果たすことを求めている。経団連では、9月の国連総会での安倍晋三首相が行う演説で提言に盛り込んだ取り組みに言及することにも期待を寄せている。

ユニオンからコメント

経団連が、「持続可能な開発目標(SDGs)」を実現するために「ソサエティー5.0」を活用する提言を取りまとめるというニュースです。

「ソサエティー5.0」とは、平成28年1月22日に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」の(キャッチフレーズ)です。科学技術基本計画は、平成7年に制定された「科学技術基本法」に基づいて5年ごとに作られている計画です。

【ご参考】【科学技術基本計画】内閣府

【ご参考】【第5期科学技術基本計画 概要】内閣府(PDF:500KB)

経団連が「課題解決と未来創造の視点を兼ねた成長モデル」と持ち上げる「ソサエティー5.0」は、『サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した「超スマート社会」を未来の姿として共有し、その実現に向けた⼀連の取り組み』のことを言うようです。

超スマート社会の実現には、「失敗を恐れず高いハードルに果敢に挑戦し」「他の追随を許さない」などの、(スマートではない)泥臭い言葉が並べられています。難しい言葉を使っていますが、「斬新で創造的なアイデア」で、「経済成長や健康長寿社会」を目指し、「ビジネス力の強化、サービスの質の向上」につなげるということのようです。

SDGs(エスディージーズ:Sustainable Development Goals)は、「2030年までに、地球環境の悪化を食い止め、貧困や格差の問題などを解決する」ため、2015年9月に193のすべての国連加盟国が合意した、(国・政府・企業・すべての人)が取り組む国際社会共通の目標です。経団連が「達成に貢献する」と、今になって各国に提案したり国内外に取り組みをアピールしたりする必要はありません。

【ご参考】【持続可能な開発のための 2030 アジェンダ】外務省(PDF:0.99MKB)

【ご参考】【持続可能な開発目標(SDGs)】GCNJ

2015年9月25日に国連で採択されたSDGsについて、およそ2年が経過した今頃になって、経団連が慌てて取り組み始めた背景を見てみましょう。

【これからの「いい会社」とは?】

「いい会社」の概念が変わりつつある。背景にあるのは、環境や社会に貢献する企業に積極的に投資する「ESG投資」の世界的な広がりだ。ESG投資を推進するため、国連は2006年に責任投資原則(PRI)を提唱した。現在、世界で1700以上の年金基金や運用会社が署名。運用資産は計62兆ドル(約7千兆円)にのぼる。日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や大手生命保険など55機関が署名済みだ。世界有数の機関投資家として知られるノルウェー政府年金基金は15年、利益を石炭に依存する会社を投資対象から外すと発表した。CO2を大量に出す石炭火力発電所などは将来の成長が見込みにくいと判断したためだ。(2017年5月24日 朝日新聞)

ESG投資とは、企業のビジネスを環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の観点で分析し、評価の高い企業に投資するという方法です。(環境)ではCO2排出量削減など、(社会)では人権や女性差別について、(企業統治)はコンプライアンスや経営透明性が評価基準になります。ESGを評価することで、決算書などの財務諸表では見つけられないリスクを排除するという考え方です。

実際に、自動車の排気ガス規制など、世界的に環境規制は強化されつつあります。企業の不正や人権侵害に対して消費者が厳しい目を向けるようにもなっています。経済産業省の研究会は「ESGに対する評価が良い企業は、そうでない企業と比べ、株価や資本市場の評価が上昇する傾向がある」と報告しました。

ESG投資は年々増加していて、現在では全世界の運用資産の30%を超える規模になっています。日本でも2015年に年金積立管理運用独立法人(GPIF)が署名して一気に注目されるようになりました。ESGを重視しない企業は投資対象から外されてしまうということですから、環境・人権・労働への対応が不十分な企業は大きなリスクを抱えることになります。

そのESG投資の基礎になっている、PRI(国連が2005年に公表した投資ルール)が、ガイドラインにSDGsを組み込む検討を始めました。すでに、世界最大の会計事務所であるデトロイトトーマツのホームページには「SDGsを使いこなす企業が、勝ち抜く」と掲載されています。

つまり、環境や人権、企業統治で会社を評価する「ESG投資」は世界的な標準ルールになりつつあり、その原則にSDGsがまもなく組み込まれるということです。このような背景から、経団連は取り組みを急いだのでしょう。しかし、2016年3月4日にはSDGsの企業に向けた指針が公開されています。

【ご参考】【SDGs の企業行動指針】公益財団法人地球環境戦略研究機関(PDF:6.05MB)

【企業も経営に導入 国連「持続可能な開発目標」】

国連が定めた国際社会共通の成長目標「持続可能な開発目標(SDGs)」を経営に活用しようとする企業の動きが活発化してきた。気候変動やエネルギーは地球規模のテーマであり、健康や雇用といった課題は先進国でも深刻化している。SDGsは、地球上の全人類を対象とした共通目標という位置付けだ。SDGsに法的拘束力はないが、日本の産業界でもSDGsの活用を打ち出す企業が出てきた。
富士フイルムは、17年から始まる新たな中期経営計画と中期CSR計画の策定に当たり、SDGsを活用する。これまでは重要課題の候補を、国際規格であるISO26000やGRIガイドラインなどから130個リストアップし、それぞれ優先度を決めていた。今回はこれに加え、SDGsが公表した169の小目標も課題と捉えて評価。その結果、再生可能エネルギーや気候変動の適応策について、より重要度を上げた方がよいと判断した。SDGsは企業において実践の段階に入った。戦略的に活用できれば、世界共通の課題の解決企業として、存在感を示すことができる。(2016年12月8日 日本経済新聞)

SDGs の企業行動指針は「地球は、経済、社会および環境の面で大きな課題に直面している」から始まります。そして、「世界の各国政府は、すでにこの目標に合意している。今こそ企業が行動を起こす時である」と書かれています。1年以上が経過した「経団連が提言を取りまとめる」というニュースは、「遅きに失した」感が否めません。

【ご参考】【SDGsへの取り組み「日本企業これから」】

安倍政権が作った「ソサエティー5.0」の低い認知度を経団連が忖度したのでしょうが、何であれ上手に活用され(SDGs)が実現するのであれば歓迎します。国連加盟国である日本は、すでに「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置していますから、いよいよ実現に向けた取り組みが本格化するのでしょう。

【ご参考】【持続可能な開発目標(SDGs)推進本部】首相官邸

SDGsは、「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」ことを重要目標に掲げています。その理由を、「全世界の失業者数は、2007年の1億7,000万人から2012年には2億200万人近くにまで増大していますが、そのうち約7,500万人は若い女性と男性です。22億人が1日2米ドルという貧困ライン未満で暮らしていますが、安定的で賃金の良い仕事がない限り、貧困を根絶することはできません」としています。

そして、目標を実現するために、「(8-5)2030 年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する」、「(8-8)移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する」ことを各国に求めました。

言い換えると、日本は(2030年まで)に、(障害者を含むすべての人)に、(働きがいのある人間らしい仕事)と、(同一労働同一賃金)を達成すると約束したことになります。そして、(すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する)と国際社会に公約済みなのです。

名だたる大企業が加入する経団連は、「安定的で賃金の良い仕事」「労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境」を提供・促進する立場にあります。SDGsが重要目標として掲げる崇高な理念が実現するよう、「ビジネス力の強化、サービスの質の向上」程度を掲げる「ソサエティー5.0」に引きずられることがないよう願っています。

出典元:産経新聞・内閣府・外務省・GCNJ・朝日新聞・公益財団法人地球環境戦略研究機関・日本経済新聞・首相官邸