【ES細胞、医療用に作製へ 厚労省部会、京大の計画を了承】

2017年6月7日
日本経済新聞

厚生労働省の再生医療等評価部会は7日、人の胚性幹細胞(ES細胞)を医療用に作製する京都大学の計画を了承した。すでに文部科学省の専門委員会の了承も得ており、年度内にも大学などに臨床研究に使うES細胞の提供を始める。

ES細胞はiPS細胞と同様に体内の様々な臓器になる能力があり、再生医療での活用に期待が高まる。

iPS細胞ではすでに目の難病患者に移植する臨床研究が実施されている。ES細胞は受精卵を壊して作るため、生命倫理上の観点から国内では基礎研究用の作製に限られていた。
その後、2014年に国の指針が改正され、関連する法律も施行されたため、臨床研究にも使えるようになった。

部会に先立って同日開かれた審査委員会で京大の計画が国の指針に適合しているかを確認。その後、部会で了承した。iPS細胞と並ぶ万能細胞であるES細胞でも、再生医療の臨床研究などに道が開けたことになる。

計画によると、不妊治療などで余った受精卵の提供を受け、10年間に約20種類ほどのES細胞の株を作る。大学や研究機関などにES細胞を提供し、再生医療に使う研究や医薬品の開発などに利用してもらう。

海外では、ES細胞から作った神経細胞を脊髄損傷の患者に移植する臨床試験が2010年に米国で実施。このほか英国や韓国なども含めると、50例以上の臨床試験の実施例があり、医療応用を目指す動きが本格化している。国内では国立成育医療研究センターが京大と同様の計画を厚労省に申請する予定だ。

ユニオンからコメント

厚生労働省が、ES細胞を医療用に作製する計画を了承したというニュースです。
倫理などの審査を始めてからおよそ1カ月で結論が出されました。この決定により、iPS細胞に続いて、ES細胞についても臨床研究などが一気に加速することになります。

【ご参考】【厚生科学審議会(再生医療等評価部会)】厚生労働省

【医療用ES細胞、審査 来月にも了承へ】

再生医療に使う胚性幹細胞(ES細胞)をつくる京都大の研究チームの計画について、厚生労働省の委員会は19日、国の指針に適合しているかの審査を始めた。倫理面の手続きを中心に確認し、来月にも了承される見通し。計画は文部科学省でも審査中で、両省が認めれば、国内で初めて治療に使える臨床向けのES細胞が作られることになる。(2017年4月20日 朝日新聞)

iPS細胞については、既に新たな細胞の提供が始まっています。また、遺伝子治療の分野では、統合失調症の病状回復につながる治療に成功したことが報じられました。

【<iPS細胞>新たな白血球型細胞の提供始める】

再生医療に使うiPS細胞(人工多能性幹細胞)を備蓄する「iPS細胞ストック事業」に取り組む京都大iPS細胞研究所は18日、日本人に2番目に多い白血球型(HLA型)の細胞の提供を始めた。HLA型が一致していれば、移植時に拒絶反応が起きにくい。現在提供している日本人に最も多いHLA型の細胞と合わせて、日本人の24%をカバーできるようになる。患者本人の細胞から作製したiPS細胞を移植すれば、拒絶反応はないが、コストと時間がかかる。このため、同研究所は他人由来の細胞を使った治療を念頭に、日本人に多いHLA型のiPS細胞の備蓄を進めており、目の難病を対象にした臨床研究も始まった。2020年度末までに、日本人の大半をカバーできる備蓄体制を目指す。(2017年4月18日 毎日新聞)

【統合失調症 遺伝子治療へ】

統合失調症を発症させたマウスの認知機能を遺伝子治療で回復させることに成功したと、理化学研究所や東京大などのチームが発表した。既存の治療薬は、主な症状のうち幻聴や妄想などの軽減には有効だが、記憶力や注意力など認知機能の低下を防ぐ効果がなかった。新薬開発につながる可能性があるという。チームの安田光佑・理研客員研究員は「脳の発達期を過ぎると多くの精神疾患は後戻りできないと考えられてきたが、遺伝子治療で症状が改善する可能性が示された」と話している。(2017年4月27日 毎日新聞)

【ご参考】【統合失調症研究に新たな視点】理化学研究所

理化学研究所は、ビッグデータを解析して統合失調症のメカニズムを解明することにも成功しています。研究所は、「この研究で得られた(ヒト疾患関連ゲノム領域)には、疾患リスクに寄与する遺伝的メカニズムが存在することを示している。今後、こうしたビッグデータの複合的解析をさらに推進することによって、精神神経疾患を含む多因子疾患の遺伝的メカニズムの解明につながる」としています。

ゲノムとは、遺伝子と染色体から作られた言葉で、DNAのすべての遺伝情報のことです。つまり、「病気を遺伝させるメカニズムを見つけた」、「研究が進めば多くの病気で原因が解明され治療方法も見つかる」ということです。

【ご参考】【統合失調症の新たな遺伝的メカニズムを解明】理化学研究所

急速に進化している遺伝子治療ですが、そこには「倫理」という課題が残ります。
iPS細胞やES細胞を使った再生医療でも、臨床に向けた厚生労働省の審査など、倫理面のルールを法律で定めています。遺伝子治療やゲノム編集の分野では、「倫理」をめぐる議論がうまくいっていません。

【ゲノム編集、学会と国が対立 審査体制めぐり委員会解散】

狙った通りの遺伝子を改変できるゲノム編集をヒト受精卵などに使う研究の審査のあり方をめぐり、内閣府と関連学会が対立している。国の責任で審査するよう求める学会に対し、内閣府は「協力する立場」との見解を崩していない。反発した学会側は17日、研究の妥当性などを審査する合同の委員会の解散を決定し、内閣府に伝えた。事態が改善しなければ、十分な倫理審査を経ない研究が行われる可能性も出てくる。学会側は国の姿勢が信頼関係を崩したとし、中核の関連4学会理事長で先週末に協議。全員一致で委員会の解散を決定し、17日付で内閣府に伝えた。学会側は「責任の所在もあいまいで、きちんとした審査ができない。ゲノム編集は日進月歩で、早急な対応が必要であることは確か。仕切り直して、改めて体制を整備するべきだ」と話している。(2017年4月18日 朝日新聞)

AIと同様、私たちの生活を一変させるような新しい技術を社会が受け入れるためには、倫理に関する深い議論と情報公開が不可欠です。「成功は世界初」「新たに発見」というニュースに触れるたび、いずれすべての病気が治せる時代が来るのではないかと感じます。それと同時に、そのような時代を私たちがどのように受け入れればいいのか、説明が足りないと感じることも少なくありません。

開発が進む新技術は「すべての人にとって素晴らしいものである」のか、それとも「命や寿命にまで格差が生まれてしまう」のか。再生医療や遺伝子治療では、倫理について慎重な議論を重ね、技術がもたらす新しい常識を広く世の中に知らせる努力が求められます。

出典元:日本経済新聞・厚生労働省・朝日新聞・毎日新聞・理化学研究所