【月183時間残業、ハイヤー運転手過労死 逆転で労災認定「待機も労働」】

2017年5月26日
産経新聞

ハイヤー運転手の男性(当時63)が心筋梗塞で死亡したのは、最大月183時間の残業など過労が原因だとして、東京労働局労災保険審査官が労災認定していたことが26日、分かった。決定は3月28日付。運転手の待機時間の評価が異なり、不認定だった新宿労働基準監督署の決定を覆した。

決定書などによると、男性は平成25年、東京都新宿区にある車両運行管理業の会社に入社。同社と請負契約している神奈川県内の会社の役員付き運転手として勤務していた。休日もゴルフ場へ役員の送迎を行うことが多く、残業は半年間で平均月148時間に及び、27年10月に運転席で倒れているのが発見された。

遺族は同年12月、新宿労基署に労災請求したが、労基署は28年6月、待機時間を労働時間に含めず、「就労状況に過重が存在したとは考えられない」として、認定しなかった。

このため、遺族らは労働局の審査官に審査請求。審査官は、待機場所にパイプいすと机が置いてあるだけで仮眠などできないスペースだったとして、待機時間も労働時間に含めた。
運行業の会社は「コメントできない」としている。

ユニオンからコメント

東京労働局が、ハイヤー運転手の待機時間を(労働時間に含む)残業であると判断して、過労死の労災を認定したというニュースです。

「仮眠や待機時間が、労働時間なのか?休憩時間なのか?」について争われてきた裁判では、実情がどのような状況であったかが厳密に問われます。休憩・仮眠時間といえども業務に備えて緊張感を持続しておく必要があるのか、確実に労働から解放された時間であったかということです。例えば、警備員の仮眠については、1人きりで勤務する職場では労働時間と認められ、交代制で複数の人が勤務していた場合には休憩時間と判断されています。

【「仮眠も労働時間」イオン関連会社に残業代支払い命令】

イオンの関連会社で警備業の「イオンディライトセキュリティ」(大阪市)の男性社員(52)が宿直の仮眠は労働時間にあたるなどとして、未払い残業代などの支払いを求めた訴訟の判決が17日、千葉地裁であった。小浜浩庸裁判長は「労働からの解放が保証されているとは言えない」として、原告の請求をほぼ認め、未払い残業代と付加金の計約180万円を支払うよう同社に命じた。
判決によると、男性は2011年に入社し、都内や千葉市のスーパーで警備の仕事をしてきた。千葉市の店で働いていた13年1月~8月には24時間勤務で、30分の休憩時間と4時間半の仮眠時間があった。原告側は「仮眠時間でも制服を脱がず、異常があった際はすぐに対応できる状態を保ったままの仮眠で、業務から解放されなかった」と主張。小浜裁判長は「仮眠時間や休憩時間も労働から解放されているとは言えない」と指摘した。閉廷後、会見した男性は「同じような労働環境で働いている同僚がいる。今回の判決が、警備業界の就労環境の向上につながれば」と話した。(2017年5月17日 朝日新聞)

【働かざるを得ない休憩時間には「残業代」が支払われる】

労働基準法は、休憩時間の付与を義務付けています。労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、労働時間の途中に取ることとされています。休憩時間は、社員が自由に使うことができる時間です。社員が自分の意思で仕事をするのは自由ですが、仕事をせざるを得ない状況を会社が作り出して、社員が休憩を取れずに働く場合は、残業代の支払いが発生します。
ある小売チェーン店の事例を紹介します。同社の営業時間は午前10時~午後8時です。社員はシフト勤務で1日9時間半の拘束時間です。休憩は1時間半に設定されていました。1時間の昼休憩と30分の夕方休憩です。しかし現実には、社員が休憩を取ることができるようなシフトは組まれていませんでした。
昼休憩には入れるものの、早めに切り上げざるを得ないことが大半でした。夕方休憩はほとんど取れていませんでした。現場には、「休憩を取るぐらいなら、一人でも多く接客をして売り上げを伸ばすべきだ」という雰囲気があったそうです。夕方休憩が取れないことについて、表立って不満の声を上げる社員はいませんでした。
そんなある日、労働基準監督署の調査が入りました。労基署は社員が休憩を取れていない実態を指摘し、その時間分の残業代支払いを命じたのです。休憩時間の開始と終了をタイムカードに打刻させる会社は、そう多くありません。タイムカードがなければ、社員が「休憩も取らずに働いていた」と訴えても、その実態を確認するのは困難です。また、働いたことが社員の意思だったのか、あるいは働かざるを得なかったのかを判断するのも難しいでしょう。(2016年12月9日 毎日新聞)

いつでも業務に対応しなければならない状況は、業務と同じようにストレスがかかっていますので、休憩とはいえません。休憩時間の適切な管理は、会社にとって残業代支払い義務が生じるだけでなく、労災など、はたらく人の健康被害に直結します。

人手が足りないから、「誰も休んでいないから」では、気づかないうちに過労状態に陥っているかもしれません。会社の休憩管理も重要ですが、休憩を取らないことが常態化している職場では、体調を崩す前に「きちんと休憩を取らせて」と声を上げることも大切です。

出典元:産経新聞・朝日新聞・毎日新聞