【ヤマト、一部通販との契約打ち切りへ 採算割れ法人対象】

2017年4月27日
朝日新聞

宅配便最大手のヤマト運輸は、通信販売会社との配送契約の一部を打ち切る方針を固めた。違法な長時間労働が常態化する宅配ドライバーらの負担を軽減するためには、法人客との取引を打ち切ってでも、扱う荷物量を減らす必要があると判断した。すでに一部の荷主に対し、契約打ち切りの通告を始めている。

荷物量などに応じて適用する運賃の割引幅が大きく、採算割れしている法人客が契約打ち切りの主な対象で、大手の通販会社も含まれる。契約期間の満了をもって取引を終える方針だ。

ヤマトが昨年度に扱った荷物(約18億7千万個)の数%分の取引が対象になる可能性がある。9月末までに打ち切り交渉を終え、10月に始める中期経営計画に交渉の結果を反映させる考えだ。

ヤマトが扱う荷物はこの5年間で約4億4千万個増える一方、荷物1個あたりの収入は40円程度下がった。2013年度から本格的に取引を始めたネット通販大手アマゾンを中心に低運賃の荷物の割合が増えたためだ。

14年度に法人客との値上げ交渉に力を注ぎ、荷物の単価は一時的に上向いたが、再び下落に転じている。ヤマト幹部は「法人客と打ち切りを前提にした交渉はしてこなかったが、これからは違う」と話す。

契約打ち切りを通告された法人客は、佐川急便や日本郵便など他の大手宅配会社に配送を切り替える交渉を始めている。だが、荷物量急増と人手不足は業界共通の課題で、高い運賃での契約を迫られるのは避けられそうにない。
運賃の値上げ分が通販の送料などに転嫁され、通販の利用者の負担が増す可能性がある。

ユニオンからコメント

宅配便大手のヤマト運輸が、従業員の負担を軽減するため、取り扱い量を減らす方針を決め、通販業者との契約を打ち切るというニュースです。

【通販業者「せめて交渉を」 ヤマト契約打ち切り通告に悲鳴】

宅配便最大手のヤマト運輸が一部の法人客との配送契約を打ち切る方針を打ち出したことで、通信販売業界に波紋が広がっている。

「交渉しようにも、とりつく島がない」。
ヤマトから契約の打ち切りを打診されたある大手通販会社の社員は嘆く。打ち切りをほのめかされたのは3月末。3年ほど前に値上げを持ちかけられたが、当時は「荷物量を増やす」と持ちかけて値上げ幅を抑えるなど交渉の余地があったという。
だが、今回の交渉は違った。ヤマトの担当者は「会社として決めたことですから」の一点張り。今月に入って正式に打ち切りを通告された。

打ち切りの対象になった理由も示されないままだ。「見通しが立たない。ヤマトも苦しいのは分かるが、せめて交渉のテーブルにだけでもつかせてもらえないか」。業者は悲鳴を上げている。業界関係者は「4月に入って、ヤマトから値上げや打ち切りを通告された業者が全国で急増している」と明かす。長年取引を続けてきた中小零細の業者にとって、ヤマトは圧倒的に強い立場だ。(2017年4月27日 朝日新聞)

ネット通販の配送を増加させたことで業績が悪化したヤマト運輸では、利益のない通販業者との契約を打ち切るだけでなく、個人向けの運賃値上げも決めました。およそ200億円の未払い残業代支払いが原因の一つです。

【ヤマト、値上げ5~20% 消費者向け27年ぶり】

宅配最大手のヤマト運輸は24日、9月にも宅配便の基本運賃を5~20%引き上げる方針を固めた。値上げで得た資金を働き方改革や人材の確保に充て、宅配サービスの維持を目指す。消費者を含めた全顧客が対象となる値上げは、1990年に平均8%上げて以来、27年ぶりとなる。

ヤマトが値上げの本丸に据えるのは、全体の9割を占め、基本運賃を大幅に下回る割引料金を適用するネット通販会社のアマゾンジャパン(東京・目黒)など大口顧客向けだ。
親会社のヤマトホールディングス(HD)はネット通販の荷物の増加に伴う配送の外部委託費の増加や、人手不足による人件費の高騰で収支が悪化している。
トラック運転手ら約4万7千人に過去2年間分で総額190億円の未払い残業代を支給することも響く。(2017年4月25日 日本経済新聞)

【ヤマト、未払い残業代190億円 4.7万人分 膨らむ可能性】

サービス残業の実態を全社的に調査してきた宅配便最大手のヤマトホールディングスは18日、宅配などを担うセールスドライバー(SD)らに支給する未払い残業代が少なくとも計約190億円にのぼると発表した。

「宅急便」を手がける傘下の事業会社、ヤマト運輸のSDなどフルタイムで働く約8万2千人を対象に、最大過去2年分の勤務時間を調査。うち少なくとも約4万7千人が違法なサービス残業をしていたことが判明したという。未払い残業代の調査は続いており、支給額はふくらむ可能性がある。

「大勢は見えてきたが、一部の事業所はまだ続いている」(大谷友樹上席執行役員)といい、さらに未払いが判明すれば支給する方針。パート社員も申告があれば調べるという。
北日本の営業所に勤める男性のSDは、3月初めに未払いの残業時間を申請したが、それから約1カ月間、会社から説明がないという。

「時間を申請しただけで、支給額は分からない。社員へ何も説明せずに『大勢は見えてきた』と言えるのか。申請通りに2年分支払ってくれるのか。みな会社の真意を測りかねている」と不安げに話した。「調査の時間が短く、きちんと申請できなかった」との不満も同僚の間にくすぶっているという。(2017年4月19日 朝日新聞)

過去2年分だけを見ても、およそ200億円の未払いがあったのですから、それ以前から残業代の未払いが続いていたことは明白です。時効のため、それ以前の残業代について従業員は泣き寝入りせざるを得ません。

本来払うべき給料を支払っていなかった会社の責任は決して軽いものではありません。アマゾンや再配達など、問題をすり替えたり責任転嫁したりするのではなく、長年にわたって違法行為を放置し続けた会社の体質や経営責任に目を向けるべきです。

【ヤマト、サービス残業常態化 パンク寸前、疲弊する現場】

「1日に配達できる荷物の量を超えていると思っても、ドライバーが減らすことはできない。長時間労働が日常的になっている」
ヤマトの30代の現役ドライバーは打ち明ける。配送時に携帯する端末の電源のオン・オフの時間などをもとに給与が計算されているが、電源を入れる前の仕分け作業や、電源を切った後の夜間の伝票作業などが常態化し、サービス残業が増えているという。
別の30代のドライバーは「1日17時間ぐらい働いても、申請しているのは13時間。昼休憩も60分取ったことになっているが、配達の合間に妻が作ってくれた弁当を急いで食べて、また配達をしている」と明かす。

ヤマトの配送拠点は全国約4千カ所。宅配業界で群を抜く規模だ。
自社で多くのドライバーを雇い、荷物が集中する地域に人手を移すなどして、他社に頼らず家庭に配り切るノウハウを蓄積。業界2位の佐川急便が2013年に手放したネット通販大手アマゾンの荷物も多く引き受けてきた。
「サービスが先、利益は後」。宅急便の生みの親、故小倉昌男氏が掲げた理念を社是として、通販業者が求める顧客サービスの充実に協力もしてきた。しかし、現場の疲弊はもはや覆い隠せなくなっている。(2017年3月4日 朝日新聞)

これまでヤマト運輸は、労働基準監督署から是正勧告を受けたり、過労死が労災認定されたりしていました。「もう少し早く対処していれば、社員の命を失わずに済んだかもしれないと反省すべき」とユニオンでも取り上げています。

【ご参考】【ヤマト、賃金未払い総額数百億円の可能性も】

電通事件で長時間労働が騒がれたから残業代を払い、「アマゾンが悪い」「便利さに甘える消費者も悪かった」のような風潮が広がり始めたから値上げや契約の打ち切りを決めた、そう疑わざるを得ない違和感が残ります。「ヤマト運輸は、アマゾンや便利さを求める消費者の被害者だ」と言わんばかりです。

ヤマト運輸の「違法な長時間労働から宅配ドライバーを守るためには、業者との取引を打ち切ってでも、扱う荷物量を減らす必要がある」は、言い方を換えると「シェア競争のため従業員を毎年100億円分タダ働きさせてきたけれど、残業代を払わなければならなくなったから値上げする。嫌なら他社へどうぞ」ということです。

現実は、「便利さを追い求める消費者がヤマト運輸を苦しめていた」ではなく、払っていなかった残業代を価格に上乗せしたに過ぎません。福島原発事故の賠償金が電気料金に上乗せされるのと同じ構図です。残業代を払わないことで従業員を苦しめ、契約打ち切りや値上げで顧客に迷惑をかけるヤマト運輸では、以前も似たようケースがありました。

【ヤマト、メール便廃止 利用者の「信書」同封防ぐ】

ヤマト運輸は22日、3月末でメール便サービスを廃止すると発表した。メール便に手紙などの「信書」が交ざると、利用者に刑事罰が科される恐れがあり、誤った利用を避けるためだ。メール便事業では信書の取り扱いを巡りヤマトと総務省の間で争点となっている。

ヤマトは1997年から「クロネコメール便」の名称でメール便を全国展開。
宅急便より割安な価格で消費者の郵便ポストに届けるのが特長だ。利用客の大半はカタログなどを送付する法人だが、オークションサイトなどの台頭で化粧品など小容量の物品を配送する個人も利用している。メール便では信書を扱えない。メール便に信書を同封するなどして、郵便法違反容疑で警察から事情聴取されたり、書類送検されたりするケースがあり、ヤマトの顧客だけで2009年以降、8件発生した。

ヤマトは宅急便の創始者の故・小倉昌男氏が率いていた80年代から、事業の許認可権を持つ官庁と対峙してきた。信書を巡っても、実質的に日本郵政グループが独占していることを問題視。13年12月には信書を書類の大きさで定義する案を総務省の審議会に提出した。ただ、昨年秋に総務省がまとめた規制緩和案などではヤマトの主張は取り入れられなかった。(2015年1月23日 日本経済新聞)

1980年代から官庁と制度問題で対立してきたヤマト運輸であれば、「クロネコメール便」をスタートさせる前に想定できた事態といえます。顧客に対する廃止の理由は、「利用者に迷惑がかかるから」ではなく、「見通しが甘かった」であるべきです。

納得のいかないヤマト運輸は、「信書と国際スピード郵便(EMS)の制度見直し」を提起する特設サイトを開設しました。2015年11月には、宅配便の公平・公正な競争を求める意見広告を全国紙に載せています。

この特設サイトでは、日本郵便への優遇などの問題点を挙げ、(未払い残業代を払うために値上げする)ヤマト運輸が、「クロネコメール便の廃止がなければ、郵便料金の値上げはなかったのではないか」と公式にコメントしています。

【ご参考】【いい競争で、いいサービスを。】ヤマト運輸

特設サイトで、「国際スピード郵便(EMS)の簡易な通関手続きが、不正薬物やコピー商品の流入を助長している」と制度を批判しているヤマト運輸が、2015年に「匿名配送」というサービスを始めています。

【メルカリ、ヤマト運輸と連携して「匿名配送」運用へ】

フリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリは、ヤマト運輸と連携して運用している配送サービス「らくらくメルカリ便」で、匿名配送の試験運用を9月中旬に開始する。匿名配送では、伝票の宛先欄と送主欄が白紙のままとなり、出品者と購入者が互いの氏名や住所を明かさずに商品を取り引きできる。(2015年09月10日 Cnet )

【ご参考】【匿名配送】ヤマト運輸

【現金出品を禁止に 1万円札など額面以上で出品】

スマホを使って不要品の売り買いができるフリーマーケットアプリ「メルカリ」を運営する「株式会社メルカリ」(本社・東京都港区)は22日、1万円札など現在発行されている紙幣や貨幣の出品を禁止した。現金を額面以上の価格で出品するケースが相次いでいることを利用者などから指摘されたため。
メルカリ広報は毎日新聞に対し「広義のマネーロンダリングにつながる恐れもある。現在24時間体制で監視し、出品されたら削除している」と説明している。メルカリ広報によると今月下旬、「メルカリ上で現金が出品されている」「落札金額をクレジットカードで決済することで、カード利用枠の現金化に利用されているのでは」などの指摘がツイッター上で拡散され、それまで数件だった現金の出品例が急増したという。(2017年4月24日 毎日新聞)

メルカリで現金が販売されていたケースでは、ヤマト運輸の「匿名配送の簡易な手続きが、不正取引を助長している」可能性が高いと考えられます。匿名配送サービスも、いずれ「犯罪に使われるおそれがある」と突然廃止されるかもしれません。

思いつきや甘い判断の経営は、従業員を苦しめます。サービスを突然やめれば、困った利用者から苦情を言われるのは現場の社員だからです。「日本郵政と闘う」「ネット社会の利便性を先取りする」と鳴り物入りで始めた事業であれば、ヤマトが「ぜひ、わが社と契約を」と積極的に営業していたはずです。理由はどうあれ、突然契約を打ち切られた業者が苦情や文句を言う相手は勧めてきた担当者しかいないのです。

【日本郵政、純損失400億円 決算、初の赤字】

日本郵政は25日、2017年3月期決算の純損益が400億円の赤字になる見通しだと発表した。豪州子会社の業績が低迷し、資産価値を切り下げる「減損処理」を行うためで、純損益の赤字は07年10月の郵政民営化以来初めてだ。

従来の予想は3200億円の黒字だった。減損の対象になったのは、15年に傘下の日本郵便を通じて6200億円で買収した豪州の物流大手「トール」。西室泰三・日本郵政前社長(元東芝社長)が主導した。業績の悪化を踏まえ、17年3月期にのれん代の全額と商標権など計4003億円を損失として一括して計上する。

記者会見した長門社長は「減損と赤字を重く受け止める」とした上で、「買収価格がちょっと高すぎた。見通しが甘かった」と述べた。トールの売り上げの伸びを高く見込んだ当時の経営陣の姿勢を「能天気だった」とも語った。(2017年4月26日 朝日新聞)

ヤマト運輸がライバル視する日本郵政でも、見通しの甘さから4000億円の損失を計上しました。旧経営陣の姿勢を「能天気だった」と現社長が能天気に語れるのは、当時の社長が「元東芝社長」だったからでしょう。

電通事件のどさくさに紛れ、働き方改革と称し未払い残業代を払う。東芝の巨額損失が社会問題になっているから、赤字決算してしまう。そんな両社に共通しているのは、苦労や迷惑をかけた従業員に対する謝罪や配慮の言葉がないことです。

出典元:朝日新聞・日本経済新聞・ヤマト運輸・Cnet・毎日新聞