【16年ネット人権侵害1900件 過去最多】

2017年3月17日
西日本新聞

法務省は17日、インターネット上の人権侵害に対し、全国の法務局が2016年に救済手続きを始めたのは1909件(前年比10%増)で過去最多だったと発表した。ネット以外も含む人権侵害全体では、前年比7.4%減の1万9443件。

全体のうち障害者への差別待遇は286件で過去最多。
学校でのいじめ(3371件)や労働権関連(2119件)は前年を下回ったものの、高水準で推移している。労働権関連のうちパワハラは1314件。

勧告など全体の処理件数は継続案件を含め1万9553件。このうち勧告は5件で、在日韓国人や朝鮮大学校に対するヘイトスピーチが4件、体罰が1件だった。

ユニオンからコメント

全国の法務局が2016年に救済した人権侵害の事件数のうち、インターネット上での事件が過去最多だったと法務省が公表したというニュースです。

【ご参考】【法務省の人権擁護機関の取組】法務省

【ご参考】【平成28年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)】法務省(PDF:872KB)

人権が侵害された疑いのある事件を「人権侵犯事件」と呼び、法務省に「人権を侵害された」という被害の申し出がされると救済の手続が開始されます。

【ご参考】【救済手続の流れ】法務省(PDF:688KB)

パワハラ・セクハラ・いじめ・障害者差別は、いずれも人権侵害に該当します。被害を訴えることができなかったり、誰かに相談したりできないほど追い込まれてしまった人が、自殺を考えるほどの深刻な問題です。このような事件を防止しようと、学校教育の現場でも取り組みが始まりました。

【原発避難やLGBTに配慮 いじめ防止法、基本方針改定 文科省】

いじめ防止対策推進法に基づいて国が定める基本方針について、文部科学省は16日、新たに原発事故で避難生活をする子どもや、性的少数者(LGBT)への対応を盛り込んで改定し、全国の教育委員会などに通知した。
また、学校内での情報共有不足が子どもの自殺につながる例が相次いだため、情報共有を怠れば同法に「違反し得る」と明記。今回の改定では、発達障害を含む障害▽外国人の子ども▽性同一性障害や性的指向・性自認▽東日本大震災での被災や原発事故による避難――に関するいじめについて「特に配慮が必要」と指摘。教職員の理解や必要な支援、周囲の生徒らへの指導を求めている。(2017年3月17日 朝日新聞)

改訂された文部科学省の基本方針には、子どもに「ネット上のいじめが重大な人権侵害に当たる行為」だと理解させること、LGBTの人への対応などが明記されました。
職場で起きる問題についても、対応が変化しつつあります。

2017年1月から、職場でLGBTの人に対して差別的な言動があれば、「セクハラ」に該当すると定められました。いわゆる「セクハラ防止指針」に、「被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである」と明記されたからです。

【ご参考】【事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針】厚生労働省(PDF:120KB)

【LGBT偏見もセクハラ・・・言動、懲戒対象】

人事院は今年から、省庁でのセクハラ防止に関する規則の運用通知を改め、LGBTなど性的少数者に関する偏見に基づく言動やからかいもセクハラに当たると明記した。「同性愛者は気持ち悪い」「おとこおんな」などの差別的発言もセクハラとされる。国家公務員の一般職約28万人が対象で、違反すれば懲戒などの処分対象となる。
規則は新たに「性的指向や性自認に関する偏見に基づく言動」がセクハラに当たると定めた。人事院は「以前からセクハラと理解していたが、性的少数者に関する問題が近年社会課題となり、より明確になるよう追記した」としている。(2017年2月3日毎日新聞)

増加し続けるインターネット上の人権侵害事件については、対策が後手に回り追いついていないのが実情です。効果的な防止策を検討するには、IT企業の持つ新しい技術を応用しながら導入するなど、早急で柔軟な対処が求められます。

【不適切表現を自動抽出 ネット「荒らし」判別 米ジグゾー】

米アルファベット(グーグルの親会社)の研究子会社「ジグゾー」は23日、ネット上のコメント欄などにあふれる不適切表現、「荒らし」を抽出するソフトの無料提供を始めた。
ジグゾーなどによると、開発したソフト「パースペクティブ(視点)」は、機械学習の機能を使い、メディアのコメント欄などに寄せられる個人攻撃や、不快度の高い書き込みを自動的に抽出し、その度合いを0~100指標で示す。これまで人の手で「不適切」と判断した大量のコメントを、ソフトに読み込ませることで共通する言葉や表現などを覚えさせた。ソフトを使うほど学習して精度が高まるという。(2017年2月25日 朝日新聞)

そして、障害者差別解消法の施行を背景に、本来減少していなければならない障害者差別事件が増加していることは深刻な問題です。法務省のデータでも、平成28年度全体の件数は7.4%減少しているのに対し、障害者差別事件は7.9%増加しています。

【ご参考】【障害を理由とする差別の解消の推進】内閣府

【ご参考】【「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」を策定しました】厚生労働省

まるで相模原殺傷事件をきっかけにしたかのように、インターネット上に溢れた障害者を差別・蔑視する書き込みは現在でも残ったままです。法務省の救済件数が、「表面化したごく一部の事件を扱ったもの」と思わざるを得ません。

事実、ソーシャルハートフルユニオンに届く相談の中には、大手企業で「子どもじみた、いじめ」のような障害者差別・虐待が行われているケースが少なくありません。最初から攻撃しようとする人は稀で、きっかけは悪ふざけや「ノリ」であることが多いのです。

多くの人は「障害者差別が禁止されている」ことを知っています。障害者に親身に寄り添おうとするあまり、逆にどうにもならない溝を感じたり、想定外の反応をされて失望したりした人もいるでしょう。自覚せずに抱いていた自分の差別意識に気づき、困惑してしまう人がいるかもしれません。それでも私たちは、「社会から差別が根絶される」前に、まずは自分が「差別する側にまわらない」から始めることしかできません。

出典元:西日本新聞・法務省・朝日新聞・厚生労働省・毎日新聞・内閣府