【1月の通貨供給量、3.5%増=日銀】

2017年2月9日
時事通信

日銀が9日発表した2017年1月のマネーストック(旧マネーサプライ=通貨供給量)速報によると、現金や預金などの合計を示す代表的指数M3の平均残高は、前年同月比3.5%増の1285兆9000億円となり、過去最高を更新した。伸び率は14年1月以来の高い水準だった。

ユニオンからコメント

世の中に出回っているお金の量が大幅に増えているというニュースです。

【ご参考】【マネーストック速報(2017年1月)】日本銀行(PDF:84KB)

マネーストックとは、法人・個人・地方公共団体など、金融機関や政府以外が持っている通貨量の残高をいいます。一般的には、景気が良くなる方向にあるときにマネーストックが増加します。増えすぎると物価が上昇(インフレ傾向)してしまいます。この、マネーストックが、3カ月連続で過去最高を更新しています。

【2016年12月の通貨供給量、3.4%増】

M3平均残高は前年同月比3.4%増の1282兆2000億円となり、過去最高を更新した。(2017年1月13日 時事通信)

【2016年11月の通貨供給量、3.4%増】

M3の平均残高は、前年同月比3.4%増の1273兆8000億円となった。1年3カ月ぶりの高い伸び率で、日銀による大規模な金融緩和が続く中、残高は過去最高を更新した。(2016年12月9日 時事通信)

「消費者物価上昇率を2%に」という目標を聞いたことがある人は多いと思います。ところが、「何がどうなっているのかよくわからない」のも実感です。報道や政府発表には専門用語が多く、専門家でなければ正確に理解しづらいことが原因の一つです。

日本銀行法の第2条には、「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」と書かれています。

物価の安定は、あらゆる経済活動や国民生活の基盤になるので、とても大切だからです。物価があまりにも大きく変動すると、物の値段などから個人・会社が判断することが難しくなってしまい、通常の企業活動や個人の生活に直結してしまいます。
例えば、昨日は1000円で買えたものが次の日に2000円で売られていると、「どうすればいいかわからない」人が多くなるということです。

日本銀行は、2013年1月に「物価を安定させる目標値」として、「消費者物価の前年比上昇率2%」を決めて、できるだけ早く実現すると国民に約束しました。

【ご参考】【デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)】日本銀行(PDF:128KB)

ところが、「異次元の金融緩和」とまで言われた方針は奏功しませんでした。日本銀行は、2016年9月に検証を行い、その結果、消費者物価上昇率2%が実現できなかった理由は「原油価格の下落、消費税率引き上げ後の需要の弱さ、新興国経済の減速、国際金融市場の不安定な動き」で、実際には物価上昇率が低下してしまった。このままでは「消費者物価上昇率はマイナスないし0%程度で推移する」と判断しました。

そこで、2%を実現するには、(物価上昇率がしばらく低水準で推移すると予想されるので)マネタリーベースを長期的に増加させる方法を採ることにしました。この方法を「オーバーシュート型コミットメント」と呼ぶそうです。マネタリーベースとは日本銀行が供給する通貨のことで、マネタリーベースが増えるとマネーストックも増加します。

「マネタリーベース残高は、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する」という内容で、つまり、物価上昇率が2%になるまで、世の中に出回るお金を増やし続けるということです。そして、日銀はこれを有言実行しています。

日本が、1年ほどこの方針に沿うと、マネタリーベースの対名目GDP比率が100%(約 500 兆円)を超えると日銀は予想しています(米国・EU圏は約20%)。
この比率が70%になったときには、「異例の事態」と報道されました。

【日銀の資金供給量、FRBに迫る GDP比7割に】

日銀が市場へ供給するお金の量が米連邦準備理事会(FRB)に急接近している。日銀が10月31日に決めた追加金融緩和で、2015年末時点のマネタリーベース(資金供給量)は350兆円を突破し、約450兆円(約4兆ドル)の米国に迫る。国内総生産(GDP)に占める比率は日米欧で断トツの7割に達し、世界的にも異例の領域に入る。
日銀はこうした量的緩和を物価上昇率が2%で安定するまで続けるとしている。GDPに対する緩和マネーの比率をみると、日本が7割なのに対し、米国が2割強、欧州が1割強と、日銀の緩和度合いは突出している。日銀の追加緩和がどこまで実体経済に浸透するかは不確かだ。出口戦略に向かいだした米国でも、株価など資産価格の上昇ほど、実体経済の回復は追いついていないとの指摘もある。(2014年11月3日 日本経済新聞)

ここ数年の実際の消費者物価上昇率を見てみると、2012年がマイナス0.06%、2013年は0.34%、2014年(消費税率が5%から8%へ引き上げ)で2.76%、2015年には0.79%、昨年2016年はマイナス0.16%となっています。

この数字を2%に引き上げるという目標を達成しなければならないのですから、日銀の苦労もうかがい知れます。消費税の増税が先延ばしされたことで、「お金を増やし続けるしか手段がない」かのようにも見えます。

しかし、マネーストックが増え過ぎれば急激なインフレを引き起こしかねませんし、物価の上昇には実質賃金を下げてしまう側面があります。物価の安定や国民経済を発展させるための物価上昇率2%という目標が、達成そのものを目的にしてしまえば、逆に国民を苦しめることにもなりかねません。

今後しばらくは、世界に類を見ない異次元の「通貨供給」が続いていくと考えると、働き方改革で議論されている「賃金引き上げ」の早期実現は最も優先される課題になるはずです。そして、私たちの生活に直接影響を与える身近な問題ですから、誰もが「働き方改革実現会議」の推移を見守っていく必要があります。

出典元:時事通信・日本銀行・日本経済新聞