【事業所44% 長時間労働】

2017年1月18日
読売新聞

厚生労働省は17日、労働基準監督署が昨年4~9月に立ち入り調査した全国約1万の事業所のうち、約44%の事業所で違法な長時間労働を確認し、是正勧告したと発表した。

同省は2015年度から、事業所への立ち入り調査の結果を発表しているが、今回の調査から、調査対象の事業所を「月100時間超の残業の疑い」から、過労死ラインとされる「月80時間超」に拡大した。

その結果、立ち入り調査に踏み切ったのは、前年同期の4861事業所から1万59事業所へと倍増。長時間労働の疑いで是正勧告した事業所も、前年同期の2917事業所から4416事業所に急増した。

このうち残業時間が月80時間超だったのは、80%に近い3150事業所に上った。月200時間を超えるケースも116事業所あり、過労死ラインを超える残業が横行している実態が浮き彫りになっている。

是正勧告を受けた業種別で最も多かったのは、工場などの「製造業」(1283事業所)で、以下、小売業などの「商業」(679事業所)、トラック運転手などの「運輸交通業」(651事業所)が続いた。

悪質なケースとしては、情報処理サービス業の事業所で、労使協定の月80時間を超え、月平均92時間の残業が半年続いた従業員が脳・心臓疾患を発症。残業はほかの従業員でも最長で月200時間に上っていた。

また、ある製造業では書類上、労使協定の上限(月120時間)内にとどめるため、上司がタイムカードを不正に打刻し、違法な残業をさせていた。

ユニオンからコメント

厚生労働省が、約1万の会社に監督指導をした結果、半数近い約4500社で違法な長時間労働が確認されたと発表したというニュースです。

調査結果から、月200時間を超える残業をしている従業員がいた職場が100社以上あったことも明らかになり、過重労働が蔓延しているひどい状況が明らかになりました。言い方を変えると「法令を順守している会社が、およそ半数しかなかった」ということです。

【ご参考】【長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します】厚生労働省

【ご参考】【監督指導事例】厚生労働省(PDF:212KB)

違法な長時間労働が確認された会社のうち、月100~150時間の残業をしていた従業員がいた職場が1930か所、150~200時間でも373か所ありました。また、637社に残業代の未払いがあり、1043社は健康診断などの健康障害防止措置を実施していなかったこともわかりました。しかし、新聞大手各紙はこのニュースを大きく取り上げていません。それには次のような事情が影響しているようです。

【朝日新聞に労基署が是正勧告 社員に上限超える残業】

朝日新聞東京本社(東京・中央)が労使協定の上限を超える残業を社員にさせていたとして、中央労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが9日、同社への取材で分かった。是正勧告は6日付。同社は長時間労働で是正勧告を受けるのは初めてとしている。これとは別に、編集部門の管理職が部下の出退勤記録を無断で短く書き換えていたことも明らかにした。(2016年12月9日 日本経済新聞)

マスコミや納期に迫られた工場など、業種によっては「残業もやむを得ない」という事情があるのは事実です。とは言え、改善策を考えず放置したままではいずれ過労死・過労自殺といった悲惨な事態を生み出しかねません。失われた命は戻りませんし、会社が失う信用も甚大です。

過重労働や事故防止には、はたらく人自身が自分の心身の健康状態を把握することも大切ですが、「ギブアップ寸前」の人が休みやすい職場の雰囲気作りも喫緊の課題といえます。そのためには、指導の段階で企業名を公表するなどの大胆な改革が必要かもしれません。

これ以上はたらいたら死ぬかもしれない、それが「過労死ライン」です。単なるキーワードとして使われることなく、警鐘を鳴らすという本来の効果を持たせなければ意味がありません。誰がどこに向かって声をあげればこのような実態が改善されるのか。それを報道する側が、深く自省して多くの人に伝えていくべきニュースです。

出典元:読売新聞・厚生労働省・日本経済新聞