【首相「処遇全般是正を」 「同一労働」労使、なお溝】

2016年11月30日
毎日新聞

政府は29日、働き方改革実現会議を首相官邸で開き、焦点となっている正規・非正規間の「同一労働同一賃金」の議論を始めた。安倍晋三首相は非正規労働者について「賃金はもちろん、福利厚生、教育、研修の機会にも恵まれていない」と述べ、処遇全般の格差是正を取り扱う方針を示した。

これに対し、経団連は「日本型の雇用慣行を尊重してほしい」と慎重な対応を要望。連合は「同一賃金だけでなく、全体の見直しが必要だ」と訴え、労使間の隔たりが改めて浮かんだ。政府は年内に労使向けガイドラインを示すが、実効性が担保される内容となるかは不透明だ。

会議で連合の逢見直人事務局長は「手当、賞与、一時金、福利厚生、教育訓練の機会なども含めて処遇の格差をなくしていかないといけない」と指摘。経団連の榊原定征会長は「賃金、賞与、手当は各企業の労使間で相当時間をかけて決めている。こうした賃金体系は企業の競争力の源泉になっている」と述べ、大幅な雇用慣行の見直しに慎重姿勢を示した。

政府はフルタイム労働者の57%にとどまるパートタイム労働者の待遇を改善して中間層を底上げする目的で、2019年度の関連法の施行を目指している。検討中のガイドラインでは、職業能力や職務、勤続などに違いがあれば基本給の待遇差を認め、通勤手当や食事手当などは同一の取り扱いを求める方針だ。

ユニオンからコメント

「働き方改革」実現会議で、非正規労働者の待遇改善に向けた議論が本格的に始まったというニュースです。具体的には、現在、正社員の60%程度である非正規労働者の賃金を、ヨーロッパ諸国並みの80%程度にまで引き上げることを目指しています。

首相が民間企業にベアを求める異例の「官製春闘」が4年連続しているなか、雇用ルールにまで注文を付ける異常事態ともいえますから、企業側の抵抗は必至です。
事実、「処遇改善については労使関係の中で議論していくべき」「賃金は客観的な実態の差に基づいて判断することが重要」など、会議で出された意見からは企業側が警戒を強めている様子が読み取れます。政府は、(正社員と差をつけてよい例と悪い例)を具体的に示したガイドラインを年内に作る方針を打ち出しました。

言い方を変えると、「パートさんの時給を上げてください」と求める首相に、「それより、すべて見直しましょう」と連合が言い、「どちらも無理です」と経団連が答え、結局、「まずは、ガイドラインを作りましょう」と首相が宣言したというイメージになります。

「同一労働同一賃金」をスローガンに始まった(非正規労働者の処遇改善)を目指す議論ですが、実現への道のりは険しいようです。この(政治・労働者・使用者)が歩み寄らない背景には、間近に迫る『無期転換ルール』が影響していることが考えられます。

『無期転換ルール』とは、1年契約などの有期労働契約を繰り返し更新しながらはたらいている人(非正規労働者)が感じる「雇止めに対する不安」を解消する目的で、平成24年8月10日に労働契約法が改正され、新たに設けられたルールです。

これは「無期労働契約への転換」といって、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというルールです。有期労働契約であれば、(パート・アルバイト・契約社員・嘱託)など、呼ばれ方に関わらず対象になります。

つまり、「同じ会社で5年以上はたらいているパートの人が、正社員にしてほしいと申し込むと会社が断れない」というルールです。

加えて、この改正で『無期転換ルール』の他に、「雇止め法理」が条文に明記されました。「雇止め」は、使用者(会社)が更新を拒否することで、契約期間満了により有期労働契約が終了することをいいます。雇止めについては、過去の判例によって(一定の場合)に雇止めを無効とするルール(雇止め法理)が確立していますが、改めて条文化されました。会社の雇止めが認められない場合、同じ労働条件で契約が更新されると決まっています。

(一定の場合)とは、「過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの」と、「労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの」です。

これを言い換えると、「これまでずっと自動的に更新されてきた」「面談で上司から来年も頑張るようにと言われた」「更新の面談がなく、みんな更新されている」など、誰がどう考えても更新されるだろうと思えるようなケースです。

【ご参考】【有期契約労働者の円滑な無期転換のために】厚生労働省(PDF:6.8MB)

この労働契約法改正は、多くの企業に影響を与えます。対応に迫られる企業では、パートなどの契約社員を正社員として雇用するという動きが見られます。

【後発薬大手の沢井製薬は13日、全国6工場で働く契約社員約700人を、7月1日から業務を限定した「正社員」にすると発表した。(2016年6月14日朝日新聞)】

【家具小売り世界最大手イケアの日本法人イケア・ジャパン(千葉県船橋市)は近年、有期雇用のパート従業員を無期の正社員に切り替えた。(2016年1月10日東京新聞)】

りそな銀行は2008年に「同一労働同一賃金」の制度を導入しています。これは、銀行が経営危機になり人員削減で多数の正社員が退職してしまい、残った従業員(非正規)の働く意欲を高める必要に迫られていたという事情がありました。

「全パート従業員を正社員に」は美談として語られることが少なくありません。しかし実態は、労働力をパート従業員に頼る企業の「無期転換ルールで正社員にせざるを得ない時期が間もなく来る。いっそのこと今のうちに正社員にすればイメージアップにつながる」という意図が見え隠れします。

『無期転換ルール』は、平成25年4月1日以後に開始した有期労働契約が対象になります。つまり、もっとも早い人で、平成30年3月31日の更新時に、会社に「正社員として契約したい」と申し込めることになります。逆算すると、平成29年4月1日以降に1年間の雇用契約をした人(勤続4年以上)から対象になりますから、間もなく該当する人が登場するということです。

このときに、会社が無期転換に応じたくない(正社員にしたくない)場合に問題が生じることが考えられます。「パートなら雇いたいが、正社員はいらない」というケースです。
このような事情がある会社では、それを見越して、早々に次回の契約を更新しない事例があります。「5年ルールの期限直前で打ち切ると、あまりにも露骨でトラブルになりかねない」というのが理由のようです。

特に障害者は、非正規雇用で長い期間はたらいている人が多いので、注意が必要です。
実際、ソーシャルハートフルユニオンにも「思い当たる理由がないのに突然契約を打ち切られた」という相談が増えてきました。毎年12月から4月は雇用契約の更新が集中する時期というのも原因の一つと考えられます。

今後は、「正社員で雇ってと言われたら断れないから」契約を更新しない会社が増える、その可能性が決して低くありません。正当な理由がなく、「このままだと正社員にしなくてはならないから」契約を打ち切ったのであれば、「認められない雇止め」ですから当然無効です。会社が強行すれば不当解雇と同様の重大な労働問題として扱われます。

雇止めや不当解雇を、個人が会社と争うのはとても過酷です。裁判になれば費用も時間もかかってしまいます。「会社の対応がおかしい」「納得がいかない」、そんな時はソーシャルハートフルユニオンに相談してください。また、「次は更新されないのではないか」という不安を感じている人にも加入をお勧めします。契約が満了する前に、会社に「ユニオンに加入した」と通知したことで、雇止めを撤回させたりトラブルを未然に防げたりした。そのような実例・実績がソーシャルハートフルユニオンには多数あります。

出典元:毎日新聞・厚生労働省発表