【働き方改革、同床異夢――実現会議が初会合】

2016年9月28日
朝日新聞

政府は27日、「働き方改革実現会議」(議長・安倍晋三首相)の初会合を開き、長時間労働の是正に必要な対策などをまとめた計画を来年3月末までにつくることを確認した。ただ、経済成長を最優先して前のめりな首相に、労使とも警戒感を隠さない。日本型雇用システムの見直しという難題も立ちはだかる。

■首相前のめり、労使は警戒

「働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段。働き方改革は、社会問題であるだけでなく、経済問題です」。首相は会合の締めくくりで、こう強調した。
長時間労働の是正や非正社員の処遇改善など首相は「働く人の側に立った改革を先導する」と唱えるが、最大の狙いは経済成長の下支えだ。国連総会出席のために訪れた米ニューヨークでは機関投資家らを前に同様の講演をして、日本は「買い」だとアピールしている。

背景には、少子化と高齢化に伴う人口減少社会への強い危機感がある。
長時間労働の是正により女性や高齢者の就労を促し、働く人の比率を高める。効率よく仕事をすることによる「労働生産性の向上」で賃金引き上げを後押しすれば、消費は拡大し、国内総生産(GDP)は上昇。医療や介護の負担をまかなうことができ、出生率も改善する――。こうした「成長と分配の好循環」を描く。約2・4兆円(今年度予算ベース)を盛り込んだ「1億総活躍社会」に比べて「お金のかからない改革」(厚生労働省幹部)でもあり、格差問題への批判を和らげる効果も期待できる。

会議で扱うテーマは、厚労省の労働政策審議会(労政審)などで議論されながら経営側と労働側の隔たりが大きくて先送りされたものが多い。それでも、首相は27日の会合で「日本経済に残された時間には限りがある」と語り、政府主導で改革を進める姿勢を強調した。
協力を求められる経済界は総論では賛成する。ただ、規制強化によって業務に支障が出たり、日本の雇用慣行が大きく崩れたりしかねないことを懸念する。

長時間労働の是正について、経団連の榊原定征(さだゆき)会長は「労働者の保護と業務の継続性の両面から検討する必要がある」と語る。業種や仕事の繁閑期を問わず、一律に労働時間に上限を設けることには慎重だ。日本商工会議所の三村明夫会頭は中小企業で常態化している人手不足を念頭に、「長時間労働の原因をつぶすことを考えないと絵に描いた餅になる」と訴える。

一方、連合は同一労働同一賃金の実現などを歓迎しつつ、政府主導の制度改正を警戒する。非正社員の固定化を招くと連合などが反対する中で、労働者派遣法が昨年に改正された経緯もあるからだ。神津里季生(こうづりきお)会長は「法律をつくる前に、(労使の代表らでつくる)審議会できっちり詰める必要がある」と話している。

■「日本型雇用」見直しは

働き方改革のメニューは多岐にわたるが、政権が改革の「本丸」と位置づけるのが、同一労働同一賃金と長時間労働の是正。「二つの難題をクリアすれば、改革の成果として強調できる」と政府関係者は話す。 官邸主導で議論を進める場を整え、安倍首相は「必要な法改正に向けて、躊躇(ちゅうちょ)することなく準備を進める」と意気込む。ただ、改革がどこまで実効性をあげられるかは未知数だ。

日本の正社員と非正社員の賃金格差の根っこには、年功色が強い正社員の賃金と、仕事の「市場価値」が反映されやすい非正社員の賃金を同じモノサシではかることがそもそも難しいという現実が横たわる。同一労働同一賃金の実現に本気で取り組むなら、各企業の労使が年功的な賃金・人事制度のあり方の見直しを迫られかねない。

長時間労働をめぐる事情も複雑だ。企業側は不況時にも比較的解雇しにくい正社員の数を抑え、仕事が増えると非正社員を採用したり、残業時間を増やしたりして対応する傾向が強まった。正社員の雇用・待遇を守りたい労働側も、そんな対応を追認してきた面は否めない。ここでも、長期雇用の正社員を中心に据えてきた日本型雇用システムが改革の壁となりかねない。

【ご参考】働き方改革実現会議:首相官邸ホームページ

ユニオンからコメント

「同床異夢」とは、同じ立場にありながら考え方や目的とするものが違うことの例えです。
非正規社員と正規社員の賃金格差の解消を目指す「同一労働同一賃金」、「長時間労働の是正」については、立場は同じだけれど政府の方針・取り組み方については企業側も労働者側も警戒しているというニュースです。

「働き方改革実現会議」が掲げたテーマは以下の9つです。

  1. 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善。
  2. 賃金引き上げと労働生産性の向上。
  3. 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正。
  4. 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題。
  5. テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方。
  6. 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備。
  7. 高齢者の就業促進。
  8. 病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立。
  9. 外国人材の受入れの問題。

女性・若者・高齢者・外国人の働き方についてはテーマに上げて取り組む一方、残念ながら障害者については一切触れられていませんでした。
非正規ではたらいている障害者が多い現状を考えると、同一労働同一賃金については高い関心を持って見ていく必要があります。
現在、労働者全体のおよそ40%が非正規ではたらいていますが、正規労働者の待遇を非正規に近づけるような処遇(改悪)にならないことを願います。

また、会社から金銭解決による解雇が出来るような法律や、一定収入以上の人を労働時間規制から除外する「残業代ゼロ法案」について、これまで通り継続的に検討されていることを忘れてはいけません。このような動きは、見方によっては「働き方改革」ではなく「働かせ方改革」になりかねません。

「はたらくこと」を経済問題だとして、労働生産性の向上や効率だけの問題として取り上げることは、はたらく障害者にとってマイナス面があることも現実です。
ソーシャルハートフルユニオンでは、これからも障害者が安心してはたらける環境作りのために精力的に活動していきます。

出典元:朝日新聞・首相官邸ホームページ