環境改善へ「相談窓口に」

働く障害者への労組設立

働く障害者に特化した日本発の労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」(東京都豊島区)が昨年12月、設立された。働く障害者のための環境整備が進む一方、課題は多い。同ユニオンの石崎真一執行委員長は「働く障害者の相談窓口となっていきたい」と話している。(油原聡子)

我慢してしまう

働く障害者を巡る環境は近年、急速に変化してきた。昨年4月には民間企業の障害者に対する法定雇用率が1.8%から2%へアップ。さらに、日本は今年1月、障害者への差別を禁止し、社会参加を促す「障害者権利条約」の批准書を国連に提出。今月19日から発効する。

障害者の労働環境が整っていく中、働く障害者は40万人に上る。石崎執行委員長は「働く障害者は企業内ではごく少数しかいない。障害者の声が届きづらい現状がある」と説明する。

公務員や一部上場企業など恵まれた環境で仕事ができる障害者もいるが、日常的に差別や虐待を受け、過酷な労働環境下に置かれているケースもあるという。 不当な低賃金労働をさせられているケースもある。ある知的障害者の男性は、入社当初は10万円以下あった給与が理由もなく減額され、数万円しか支給されなくなった。給与明細もまともにもらっていない。「何かあっても子供は親を心配させたくないと思って黙ってしまう。親も、日中働ける所があるなら、と我慢してしまうケースも多い」と石崎委員長は指摘する。

石崎委員長自身も障害者の家族として、働く障害者の苦悩に直面してきた。長男が知的障害者を持ちながら働いているが、「長男は職場に希望や要求を出したことはありません。『合わなければ退職して結構です』と言われることが分かっていたからです」と話す。

外部に評価委

一方、企業側も雇用条件に対する不安や課題の多さに困惑しているという実情がある。石崎委員長は「何か言ったら差別になるのではないか、などの不安を企業も持っている。対立が目的ではなく、ユニオンが入り、ワンクッションを置くことで、問題解決に向けて企業と働く障害者の橋渡しができれば」と話す。ユニオンが間に入ることで個別の労使紛争を未然に防ぐことが可能だという。

団体交渉だけでなく、障害者の交流の場や情報交換のための活動も行う予定だ。諮問機関として、有識者による評価委員会を外部に設け、企業側の要望に応えたり、行き過ぎた組合活動を防いだりする仕組みも整えた。

評価委員の一人で、働く障害者団体協議会の藤代洋行会長は「働く障害者は身近に同じ立場の人がいないため、孤立しやすい。ユニオンがあることで情報交換もできるし、労働の専門家が集まることで解決の可能性も高まる」と期待を込める。

ソーシャルハートフルユニオンは、ホームページ(http://sh-union.or.jp/)から加入手続きが可能。組合費は、入会金3千円▽組合会費1万2千円(1年分)

立場弱く、自主的解決難しい

ソーシャルハートフルユニオンの評価委員で国際医療福祉大学大学院の松浦清教授の話「障害者雇用促進法が改正され、企業に対し、障害者への差別などが起こった場合には自主的に解決するよう努力義務が課せられるようになる。しかし、もともと弱い立場の障害者が自主的に解決するのは難しく、第三者が必要になる」

22日に無料労働相談会

ソーシャルハートフルユニオンは22日午後2時から4時まで、東京都豊島区のアットビジネスセンター池袋駅前別館で、働く障害者のための労働相談会を開く。 ユニオンの執行委員のほか、弁護士や社会保険労務士が相談を担当。裁判など係争中の事案でも相談を受け付ける。費用は無料。申し込みは不要。問い合わせは、同ユニオン(info@sh-union.or.jp)。

出典元:産経新聞 2014年2月17日