第3046号【最終回 今後の展望】

一貫した姿勢示そう
まずは会社から意識変え

課題解決が絆を深める

職場で虐待されていると1年ほど前に相談に来た障害者(精神3級・発達障害)から連絡があった。「今も同じ会社で働いていて、本当はとても良い会社だった。こんな私でも結婚することになった」という報告だった。その会社は、障害者雇用の実施体制を一から見直し、社会的責任として真剣に取り組むと宣言。担当者は「今後相談がいくことはないと思う」といっていた。

「配慮もなくひどい会社だ」と相談に来た障害者が、問題の解決を経て「私の会社は素晴らしい会社だ」というのを何度も聞きた。担当者が「問題ばかり起こす手に負えない障害者」といっていたのに、解決後、「まじめに働き戦力になりつつある」と嬉しそうに報告をしてきたこともある。

私は働く障害者の相談を日々受けているが、「正解がない問題」という認識を持っている。交渉では、現場で双方どうすれば良いか分からず「相手が悪い」と主張し対立するなか、何とか知恵を出し合い着地点を見出そうとしている。障害者から変われといっても難しい。まず会社が問題に真剣に取り組みどこかを変えようとする。そうすれば障害者の意識も変わる。かかわってきた事例から感じている。

"公平さ"にとても敏感

平成28年の改正障害者雇用促進法施行、平成30年の精神障害者雇用義務化、平成32年に東京パラリンピック開催と、これからは企業の障害者雇用に対する姿勢が注視される。コンプライアンスやダイバーシティへの取組みが企業にとって重要課題である現在、障害者虐待や思い詰めた社員の自殺といったニュースは、企業にとって致命的な問題になりかねない。極私的な見解を批判を恐れずに申し上げると、障害者との紛争をきちんと解決できない企業は、その後不祥事や情報漏えいなど新聞でみかけることが多いと感じる。

また、民間企業より高い2.3%の障害者雇用率を課されている国や地方公共団体などでも障害者の労働問題が多くなっており、相談や加入される地方公務員の方も非常に増えてきている。民間企業だけの問題ではなく、社会全体で取り組む問題になってきている。

同じような話ばかりになってしまうが、会社は1つの障害という先入観を捨て、身体・知的・精神障害者を包括的に"障害者"と捉えた視点で雇用する必要がある。そのうえで求められるのは、コミュニケーションの障害が重要であることを知り、ストレスに対する配慮を検討していくことである。会社の姿勢にブレがあると障害者は些細な違いも見逃さない。朝令暮改では大きな問題につながる。しかし、一定の決まりがあって運用が公平であれば、障害者も柔軟に対処できることが多い。

また、あえて1つ申すなら、労働組合が果たせる役割がもっとあると感じる。今のところ課題も多いが、たとえば自社の健常者が精神疾患により障害者になった場合、希望に応じて同じ会社で働き続けられるよう尽力できる身近な存在は、労働組合が第一の存在だと考えている。

これからの障害者雇用に100点満点の方策を求めるのは困難だが、少しでも役に立てればと思い書き進めてきた。障害者・健常者双方に対しより良い労働環境が構築できるのを願って止まない。

出典元:労働新聞 2015年12月28日