第3043号【第21回解雇・休職】

解雇視野に入れ対応
安易な休職は紛争に至る

和解を覆すこともあり

平成22年5月に東京高裁で、精神障害者が雇止めの無効を求めて会社を訴えた事件の判決が下されている。会社の雇止めが有効とされ、かつ障害者雇用促進法5条の意義について法廷で争われた数少ない事例である。同法同条では、「事業者が労働者の自立した業務遂行ができるように相応の支援および指導を行った場合には、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負っている」としている。

うつ病(障害3級)の精神障害者は、採用から半年後、勤務成績不良等を理由に契約を更新しない旨を伝えられた。雇止通知書には、ミスにより損害を発生させ、再三の指導にもかかわらず単純作業でもミスを繰り返し、職務不良が甚だしく、これ以上の改善の見込みがないと記載されていた。

裁判所は「会社は雇い入れた障害者をその能力に見合った業務に従事させたうえ、適正な雇用管理を行っていた」とし、「にもかかわらず障害者は作業上のミスを重ね、指導を受けても改善を図らなかったばかりか失敗を隠蔽していたものであるから、本件雇止めには合理性が認められる」と判断した。

事件の背景には、会社が障害者側の意向により一度契約を更新しており、理不尽に出社を拒否した彼に給与を払い続けていたことがあった。また、退職後、遡る形で会社を訴えた事件だった。

何度も話し合い円満退職した後に問題をぶり返したり、和解契約の締結後に一方的にそれを破棄したりする事例も何度か経験している。退職や解雇の後にも問題が起きる可能性も否定はできない。

しかし、雇用した障害者が、差別・虐待事件として公的機関に告発や通報を行ったり、労働基準監督署やハローワークに駆け込んだりする事態になった場合、退職や解雇を検討することは当然の対処である。医療の面で普通に働ける状態から就労困難な状態に悪化した場合も解雇を視野に入れて、恐れずに対応すべきだ。その際、手続きの正当性はもちろん、退職後の福祉的なセーフティーネットに関する情報や申請について会社が提供することも配慮の一つになる。会社は、あらゆる情報を収集し話合いに臨むことが要求される。なお、22年の判決は会社の主張が認められたものの、国連の「障害者権利条約」を批准した現在、逆の判決が出る可能性を指摘する専門家もいる。

担当者が参ってしまう

障害者の種類にかかわらず、休職・復職の問題は多い。病状の悪化による勤怠不良や問題行動、主治医と産業医の診断の相違などから、会社が緊急避難的に休職させている事例も少なくない。安易な休職は双方のためにならず、ほぼ確実に復職をめぐってトラブルになる。休職の前に、配置転換などあらゆる方策を検討し、面談を通じて障害者に情報を開示し、最終的に休職させる一連のプロセスが必要になる。

ひとたび問題が起きたとき、上司や同僚が対応に疲弊し休職に至ることもある。また、病状や再就職の困難さを想像し、「給料は払うから、出社できそうにないなら自由に休職して良い」など、健常者の社員にはしないことをしてしまう例も多い。配慮と考えたことに対して多くの障害者は同情されたと感じ、結果的に差別されたと訴え紛争に至ることもある。

出典元:労働新聞 2015年12月7日