第3040号【第18回差別禁止・概要①】

訴訟噴出の恐れあり
過去に欧米では敗訴多数

来年4月が1つの転換点

厚生労働省指針-すべての事業主が対象-

2016年度より施行される改正障害者雇用促進法において、重要な点は2つある。1つ目は”合理的配慮の提供を義務化”し、これを行わない行為を”差別”と定め禁止したことで、2つ目は企業と障害者との紛争について”自主的解決を努力義務”としたことだ。最近、企業から「何が差別に該当するのか」、障害者から「過重な負担と称して会社から何もしてもらえないのではないか」とよく聞かれる。

アメリカで1990年に制定されたADA法(障害を持つアメリカ人法:2008年改正)から遅れること四半世紀、日本でも働く障害者にかかわる差別禁止の法律が施行される。イギリスでも1995年にADA法を参考に障害者差別禁止法が制定され、2010年には差別禁止法との統合を目的として、平等法が制定された。EUでも2000年の指令を受けて加盟各国が法整備を行っている。

欧米では、施行後に生じた現象が印象的だ。働く障害者から差別や配慮に関する裁判が乱発した。ほとんどの企業側が負けている。アメリカだと「トヨタ訴訟」や「ユナイテッド航空訴訟」などが有名で、企業が提供する合理的配慮が争点となったケースが多く見受けられる。今後日本で同様の事態が起きても不思議ではない。

もちろん、日本独特の雇用形態や商習慣、宗教や福祉に対する感覚の違いなどから、一概に同じように語ることはできない。しかし、「来年の4月まで我慢すればいいんですよね」といってくる働く障害者が多くなってきたことも、間違いなく事実である。

社内の障害者が数十人以上になると、問題が多くなる。また、大半が心理的な問題だ。

就労意欲ゆえの厳しい目

身体障害者に対するハード面(スロープなど)や知的障害者に対する福祉的な配慮については、これまでの社会的な要請もあって整備が進んだため、企業が抱える問題としての比重は小さい。今後は、合理的配慮における”差別の禁止”という障害者に対するソフト面での配慮が非常に重要な課題になる。

差別の禁止が問題になる場合、双方の価値観が大きく乖離していることに原因がある。深刻な労使紛争では、会社が、配置や配慮について、これがベストだと決め付けていることが特徴として挙げられる。法定雇用率達成のためなのか、ダイバーシティやCSRなど企業が取り組むべき業務として積極的に雇用するのか、いずれにしろ今後は会社の障害者雇用に対する取組みや態度が問われてくるのではないだろうか。

相談を受け会社と話し合うと、「障害者だったらなんでも許されるのか」「悪いのは障害者の方だ」と主張する会社が少なからずあるのは事実だ。一方で、「雇った障害者を絶対に辞めさせない」「一生面倒みる」といい切った会社もあった。これには障害者側も感動し、現在も非常に円満な労使関係のもと精一杯の努力をしている。

会社は雇った障害者が問題を起こさないでほしいと願うが、障害者も職場で問題を起こしたくないと思っている。障害者は自身が長く働くことに真剣に向き合っており、それが会社に対する厳しい目につながることが多いと感じる。

出典元:労働新聞 2015年11月16日