第3038号【第16回総合失調症】

専門家なしでは困難
妄想を否定すると悪化も

いつの間にかうつから進行

総合失調症は、かつては精神分裂症と呼ばれていた。自らが病気であると認識できず、かつ通院を拒否する場合も多いため、治療は困難で一般就労が可能な程度に寛解するのは10人に2~3人という精神科医がいるほどだ。幻覚・妄想や興奮といった激しい症状のほか、意欲の低下や感情の起伏の喪失、引きこもりなど多彩な精神症状を呈する。そのため、うつ病や双極性障害と診断されている場合もある。医学的知識を持たず安易に判断するのは危険だが、相談に来るケースではアスペルガー症候群と同様の訴えをしている人が多いと感じる。

大手メーカーに勤務する精神障害者A(精神2級)は、データ入力の作業に従事していた。有資格者で、スキルや勤怠にも問題はなかった。だが、「職場で同僚たちが『お前は馬鹿だ』といってくる。常に自分のミスを楽しみにしている。さらに自分のデスクに盗聴器が仕掛けられており、終業後には日替わりで尾行までされている」と相談に来た。当然だが、会社にこのような事実はない。三者で話し合って一定期間休職して様子をみることで同意した。真実は不明だが、Aから聞くには、来客者の「障害者なのに頑張っているね」という一言が原因だと推測している。

この精神障害を持つ者はAと同様な相談をする方が多いものの、先述のように多彩な訴えをする。入口はうつ病や双極性障害などであるが、その段階で紛争を早期解決できないと総合失調症のような難しい問題に発展していく。

聞いても聞かなくても問題

統合失調症の特徴として、ストレスで感情が不安定になり極めて興奮しやすくなることや、薬の副作用で無気力になり引きこもりがちになることがある。また、思考のつながりが悪くて意思の疎通がとりにくく、重度だと話す内容が支離滅裂になったり考えが急に中断され突然無口になったりする。

幻覚や妄想は、ほかの精神障害でも起こるものの、一定の特徴がみられる。多いのが「誰もいないのに人の声が聞こえる」という幻聴だ。妄想も強く、代表的なものには「街ですれ違う人が自分を襲おうとしている」「尾行されている」がある。幻聴や幻覚、妄想は本人には真実で、周囲や家族が説得、否定しても変えられないのが一般的だ。

厚生労働省は医療従事者向けに「患者に妄想・妄言が含まれる場合、それを否定すると孤立感を増し症状が悪化する例が多いとされる。また、反対に肯定した場合も妄想を補強する事になり、症状の悪化をもたらす可能性がある。また、話を聞かない場合においても孤立感をもたらすため、話を根気よく聞く必要があるが、あまりにも真剣に聞きすぎると、聞き手側のストレスになり、場合によっては聞き手側にうつ病などの精神疾患をもたらす事があるためあまり真剣に聞くことも推奨されない」と援助の方針を示している。精神保健福祉士など専門的な知識を持つ人でも対処が難しい。

統合失調症で精神障害者手帳を持っていると知ったうえで雇用する場合、専門的な産業医がいるなど一定の条件が必要になる。専門的な知識を持たない普通の従業員に、職場の仲間としてこのような対応を求めることは非常に酷であり、またいわゆる「うつって」しまうことが本当に多いと感じる。

出典元:労働新聞 2015年11月2日