第3035号【第13回アスペルガー症候群】

こだわりの強さ理解
雛形用意し制限を作って

見た目が普通の難しさ

入力業務に従事する精神障害者A(精神3級)は、どの作業にも非常に時間がかかりミスも多かった。しかし、「上司の指示の仕方が悪い」と職場放棄したりと、深刻な対立を起こしていた。体調が悪いからと勤怠不良になり退職を勧められたが、「パワハラや不当な退職勧奨に該当するのではないか」と相談に訪れた。

Aは入社時、自身の障害の特性や対応に関する要望を書面にし担当者に渡していた。だが、膨大な量だったせいか、職場で情報が共有されなかった。また、入社してすぐに職場の空調に対し要望を出したが聞き入れられず、何年間も気にしていた。そのことを差別されたと感じてこだわり続け、様ざまな問題行動がAなりの自己表現になっていた。会社と対話し、配置を換え解決した。

大手外食チェーンで働く精神障害者B(精神2級)は、体調不良を届け休んだ日に遊びに行くのを同僚に目撃され注意された。以降、Bは同僚に無言電話や誹謗中傷のメール、手紙を送りつけるなど問題行動を起こし、業務に支障が出るほどだった。「パワハラに遭っている」と相談にきた。当然、会社と話し合っても問題は不明だった。

この場合は、会社が色々な仕事をさせた方が良いと思ってBに尋ね、Bも同意を示したため、業務を増やし忙しい時間帯に勤務するようになったことが原因だった。それがBの能力に見合わなかったため、問題行動を繰り返していた。その後Bも反省・謝罪し、勤務時間や業務内容を改めて見直すことで、現在も就労している。

発達障害者は「インプット」と「アウトプット」に障害があることが、働くうえで一番問題になると思う。アスペルガー症候群の場合、インプットの「やってはいけないこと」が理解できない場合が多い。自分のことを理解できない会社が悪いのであって自分は悪くないからと、パワハラやいじめの被害に遭っていると訴えるケースが非常に多い。ゆえに、問題行動が起きても同僚らには身に覚えがないことも少なくない。障害の特性であるこだわりの強さが、健常者との疎通を非常に難しいものにしている。

また、外的ストレスに弱い人が多い。体調不良を訴えたときが何かのサインだと理解すると早期に問題を解決できる。障害に配慮しすぎて業務のミスマッチが生じることも多々ある。伝票の入力作業だとミスを繰り返すが、ミスをチェックさせると些細なミスも見逃さないなどの事例も存在する。加えて、見た目が普通で日常の会話も自然にできるため、周囲が精神障害者であることを忘れがちだ。しかし、コミュニケーションに影響する障害の特性は、健常者の想像を超えたものである。

筆談による対話を重視

定期的に心身の健康状態を報告させることが大切で、文書で提出させると効果的である。また、その方法に細かい配慮が要求される。障害の特性に、たとえば「最近」という言葉がいつからを指すかこだわり回答できないことがある。会社が報告書の雛形を用意したり、文字数を制限したりといいたいことをまとめさせることが配慮につながる。筆談が重要なため、聴覚障害者と同様、本人から文字による承諾を取得し丁寧に確認することで、業務遂行や意思疎通が図りやすくなる。

出典元:労働新聞 2015年10月12日