第3031号【第9回 内部・高次機能】

思い込みで配慮禁物
再就職の困難にも気遣い

先伸ばしが生んだ虐待

健常者として働いていた従業員が脳や心臓の病気、糖尿病などを患ったために身体障害者になった場合、必要な配慮の判断が難しいと聞く。一方、障害者も生活設計の全てが狂い、再就職の困難さもあり途方にくれている。

脳梗塞の手術後手足に障害が残ってしまった障害者Cは、治療やリハビリを終えて復帰した。以前と同じように営業の現場で働けないことは覚悟していたものの、新しく配属された職場では、かなり年下の上司に厳しく叱られたり名前すら持たせてもらえなかったりした。「会社が退職を迫って嫌がらせをしている」と相談にきた。Cにはほかにも持病があって、会社は復職ではなく一定期間治療に専念するべき状態だと判断していたが、そのことを誰も言葉に出せずにいるうちにこのような状態になってしまった。

パーキンソン病などの難病は、原因不明で治療法もなく、会社がどうすれば良いかを判断することは非常に難しい問題である。徐々に身体機能に障害が出るケースや強い薬の副作用で精神障害を伴う場合も存在する。障害者の就労願望や労働意欲が強いときには、会社も退職という選択肢を告げるのが酷だと感じてしまって、問題の先送りをしてしまいがちである。

勤務中に生命に関わることがあっては大変だと、必要以上に神経質な対応や配慮をして、結果的に本人のプライベートを傷つけていたり深い溝を作っていたりする場合が多い。それが障害者側の求めるものと大きくずれている例もある。

ときには退職の選択も

復職に察して、健常者だったときのスキルや地位とのギャップに苦しむ人が多い。しかし、会社側の丁寧な配慮を感じると、愛社精神、責任感が強くなる方がほとんどである。また、病気のせいで周囲に迷惑をかけていると思い込んでいる場合も多いので、会社にはそれを取り除くことが求められる。復職後に任せる仕事を再検討することはもちろん、障害者側と徹底的に話すことや病状について共通の認識を構成することで、本人の意向をできる限り反映させる配慮も重要である。会社側も、再就職の困難さを十分に理解したうえで、柔軟な姿勢で向き合うことが大切だ。

オストメイト(人工肛門保有者)など内部障害がある人を中途採用する場合には、治療との兼ね合いについて障害者が求めることや会社ができること、できないことを具体的に明示する必要がある。勤務時間や職場の温度調節などすべてに十分な対応をすることは難しいが、障害者側で何とかできる項目がみつかることも少なくない。また、就労後に病気が悪化したときの対応を決めることも、双方にとって有効だ。休職などの制度を事前に面談し説明することで、会社に申告しやすい環境を作る必要がある。

進行性のある病気や障害では、退職し治療に専念することが障害者にとって最良な場合が存在する。しかし、障害を受け入れることさえ難しいのに、退職はなおさらである。退職ありきでは問題だが、会社が”退職”という言葉を恐れずに真摯に向き合うことでしか解決できないこともある。保険や障害年金、治療費の公的支援などの制度について、会社側で調べたり申請を手伝ったりすることも配慮の1つではないかと思う。

出典元:労働新聞 2015年9月14日