第3028号【第6回 聴覚・言語障害②】

手話だけでは不十分
速度は健常者側にも配慮

障害者側こそ文字伝達を

聴覚障害者Dの場合、業務の指示などがメモや付箋で行われていた。だが、それがはがれ落ちてしまったことでDは会議に参加できず、仲間外れにされたと感じた。その後、同僚たちを非難するメールを外部に送ったり、「会社で障害者虐待が日常的に行われている」と公的機関に告発したりしていた。「長年勤務しているのだから社員全員に手話習得を義務付けるよう要求してほしい」と私どもに相談があった。

手話習得をしている聴覚・言語障害者は、自身の第一言語が手話というほど手話によるコミュニケーションを大事にしている。手話通訳やジョブコーチなど手話習得者が間に入ることで意思の疎通が円滑になる場合も存在するが、業種や業態によってはそこまでの徹底した配慮が難しい会社もある。

手話をベースにした場合でも、言葉の意味や雰囲気などが双方が正確に共有できていない事例が多く見受けられる。実務上はやはり何かしら文字を通して情報を正確に共有できる仕組みがあると望ましい。

詳述しないが、現在、手話を教えていない聾(ろう)学校も存在する。また、実生活における便利さから、読唇や身ぶり手ぶりでコミュニケーションをとる聴覚言語障害者も増えている。

健常者側からは筆談などの文字で伝えても、聴覚・言語障害者側は”うなずく”などといった反応でコミュニケーションをとっており、双方向の筆談をしていないケースが多いようだ。この場合、同じ発音の言葉、たとえば「コピー」と「ゴミ」は唇の動きが非常に似ており、聴覚・言語障害者には同じ意味に伝わってしまう。書類をコピーするのかゴミとして捨てるのか取り違えてどのような事故が起きるかは想像に難くない。

双方にストレスない工夫

いずれにしても、聴覚・言語障害者が就労する職場における情報保障の必要性はいうまでもない。

筆談などの文字による情報伝達は、健常者側が文字で相手に伝えることよりも、聴覚・言語障害者側から文字で伝えてもらうことが大切だ。その際、速度が問題となる。障害者が先天性か後天性かにより言語能力やコミュニケーションの速度に違いがあるため一概にはいえないものの、速度の違いによるストレスは健常者側が感じることが多い。職場で長い間接しているうちに内容を省略し過ぎたり指示が雑になったりして、結果として情報保障がまったく行われなくなるケースを多くみてきた。また、聴覚・言語障害者が話す言葉が聞き取りにくく、健常者側がまるで幼児に話しかけるようなスピードや言葉遣いになってしまう場合があり、これを不快に感じる聴覚・言語障害者は多い。

聴覚・言語障害者に対する合理的配慮は情報保障を行うことに尽きる。その情報は双方向でなくてはならない。”音”のことだけを配慮すれば良いという意識ではなく、いかに情報を共有しコミュニケーションを円滑にしていくか職場に合わせた工夫が必要となる。

聴覚・言語障害者の方から話を聞いていると、この障害でも精神障害者と同様の問題が起きているケースが非常に多く感じる。情報保障を行うことは前提として、精神障害者と同等の配慮を実施されている会社では長期の就労に結び付いている。

出典元:労働新聞 2015年8月24日