第3026号【第4回知的障害②後天性】

細かく健康状態注視
責任の範囲事前に決めて

健常者との認識のずれ

大手流通会社に勤務する知的障害者A(後天性・・・てんかん)は、補助業務を行っていた。時間帯で仕事量が大きく変化し、忙しいときにはは配慮が難しい職場だった。

あるとき、上司から「大きな箱」をすぐに持ってくるように強い口調で命令され、気持ちを制御できずに上司を怒鳴りつけてしまった。それが気がかりになり、出社できなくなって困っていると相談に来た。

彼との面談により、原因は物の形や大きさを認識する能力が欠落していて「大きな」が理解できないことだと分かった。そこで、それぞれの箱に番号をつけることを提案。「何番の箱」と指示をしてもらうことで対処し、改めて配置を見直すことで問題が解決した。

また、上場企業に就労している知的障害者B(後天性・・・原因不明)の場合、「私は誰もが嫌がる仕事ばかりをさせられているのに、仕事ができないと皆に馬鹿にされている。身体を壊してしまい、日常生活にも支障をきたしている」と相談があった。

ところが、ユニオンとして会社と話し合ったところ、正反対の状況を聞かされた。同僚らは、「彼女は自分が気に入った業務しかしない。何度注意しても怠けるし、反抗的な態度をとって困っている。ユニオンにそのような相談をするのはずるいのではないか」と口ぐちにいってきて、こちらが非常に困惑した。

早期発見のシステム構築

障害者だから大変だろうと過保護に特別扱いすることは偏見や差別になる。かといって健常者扱いし過ぎてできないことをやらせても虐待に当たる。

健康や安全に対する配慮についても、今まで以上に細やかなものが要請されるようになった。ある能力だけが欠落しているものの普通に会話できるなどほかの能力は健常者と変わらない場合もある。重度の自閉症を伴うと自分で食事をとれないケースがあるなど、健康配慮について会社が想像し得ない事態が起こることも存在する。

そこで、定期的に健康診断を受けさせることや家庭と定期的な月報のやりとりを行うことなどが求められる。また、通勤中の事故や職場での暴力行為など、問題発生時の訴訟リスクや責任範囲を会社は丁寧に検討する必要もある。

まず会社側が、責任範囲について線引きをしたり保護者と協議したりするといった人権や配慮についてのガイドラインを作るべきだと考える。経験上、発達障害も併発しているのではと感じられる事例も多いので、精神障害者に対する配慮と同様の配慮も必要だ。

使用者による虐待は知的障害者に対するものが多く、障害者の首に鎖をつけ床に置いた皿から食事をさせている事案さえあった。

こうなるきっかけは、障害者同士の揉め事から処罰的な意味で行った行為が、会社が問題を解決できないうちに集団心理がエスカレートしている場合が多い。

知的障害者を雇用している企業では、障害者同士が一緒に働いている場合がどうしても多くなり、閉鎖的な職場になりがちだ。これは大手企業だから無関係という問題では決してない。知的障害者に対する虐待は、水面下でとても静かに行われることが特徴だ。問題を早期に発見できるようなシステムを構築することが喫緊の課題となる。

出典元:労働新聞 2015年8月10日