第3024号【第2回法を変える意義】

健常者にも利点あり
心理的な虐待の理解が肝要

言葉だけ変えても無意味

障害者との紛争問題では、差別・偏見・虐待といったネガティブな言葉が付きまとう。そのせいか、企業の障害者雇用担当者の方の名刺には「障がい者」と表記されているものが多いと感じる。

ご承知のように「障害者」を「障がい者」に置き換えても問題の解決にはならない。「害」という文字が持つ印象から、その文字を使わないことで配慮を示していた時代は昔のものとなった。様ざまな法律が成立した現在では、なぜ「障がい者」と表記しているのかを合理的に説明できなければならなくなっている。

企業がコンプライアンスやCSRの問題として障害者雇用に取り組むうえで、障害者関連の法律と労働基準法や労働契約法との兼ね合いなど、間もなく迎える新法下における企業としての独自の準備や対策が喫緊の課題だと感じている。確かに、企業には法令遵守やCSRといった経済活動とは別の分野の重い責任が課されている。しかし、雇用率の達成や合理的配慮、過重な負担などの条項に苦慮するばかりでは、問題の本質から離れてしまう。

平成26年2月19日国連「障害者権利条約」批准、平成28年4月1日「改正障害者差別解消法」施行など、ここ数年で「障害者」という名前が付いた法律が数多く成立・施行されていることはご存知かと思う。これら障害者に関連した法律は、国や社会・企業・健常者が守るべきものという視点で作られている。このところ拙速に法律が作られたり改正されたりしている現状では、それらの法律ごとに十分な判例・法理が確立しておらず、専門家が少ないのは仕方がない。

とはいえ、東京でパラリンピックが開催されることもあり、企業が障害者を雇用するに当たって法令遵守やCSRが気になるのも実情ではないだろうか。

障害者を取り巻く法律には拡大解釈や過小評価できる条文も多く、ひとたび会社と障害者従業員との間で紛争が起きた場合、腫れ物にさわるような対応に終始してしまって問題の先送りばかりになり、根本的解決ができないことも多いようだ。

障害者虐待防止法を学べ

ここ数年の法律改正・成立や障害者環境の変化は、障害者の権利ばかりが強くなるということでは決してなく、健常者側の意識や取組みへとより踏み込んだ内容と考えたほうが適切だと感じる。今までは「差別と思われるのではなないか」と躊躇していたことが、差別とみなされなくなったためできるようになったと捉えたほうが労使関係においては肝要ではないか。

国連「障害者権利条約」の第27条には雇用や労働についての条文があるが、多くの法律のなかでも私が注目しているのは、障害者虐待防止法で禁止されている「心理的虐待」についてである。規定があいまいであり、加害者・被害者どちらの自覚も問わないという条文から、「心理的な虐待を受けている」と障害者から相談を受けることが非常に多く、紛争の現場ではかならず飛び交う言葉だ。円満退職に至る場合や、継続して就労できる場合など、実際に障害者との労使紛争が解決した事例では、会社がこの法律についてどのように意識しているかがポイントになる場合が多いと感じる。

出典元:労働新聞 2015年7月27日