【障害者権利条約について】

2017年2月16日
ソーシャルハートフルユニオン

国連「障害者権利条約」に日本が批准し、効力が発生した2014年2月19日から間もなく3年が経過します。条約の50条に及ぶ条文には、平等・差別・権利やプライバシーの尊重、労働・雇用、生活水準や社会的な保障、文化的な生活・レクリエーション、スポーツへの参加についてが書かれています。

【ご参考】【障害者の権利に関する条約】外務省

この条約には、義務として「合理的配慮の実施を怠ることを含め、障害に基づくいかなる差別もなしに、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること」と明記されていることから、日本では国内法の整備が進みました。その一つが2016年4月1日に施行された障害者差別解消法です。

【ご参考】【障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律】内閣府

この法律は国や公共機関の取り組みを定めたものですが、今のところ行政の対策が十分とは言い難く、対応の遅れが指摘されています。

【障害者対応要領 策定は43% 市区町村の理解進まず】

全国の市区町村のうち、昨年4月に施行された障害者差別解消法で策定が義務づけられた対応要領を実際に作ったのは、施行半年後の昨年10月1日時点で43%にとどまることが分かった。対応要領は障害者が暮らしやすい街づくりを進めるため、職員がどう対応するかまとめた文書。相模原殺傷事件で共生社会のあり方が問われる中、障害者施策を進める市区町村の理解が進んでいない。対応要領とは別に、障害者差別解消法は全国の市区町村に、障害者からの相談の解決を後押しする専門組織「障害者差別解消支援地域協議会」を作るよう求めているが、設置は全体の29%にとどまる。(2017年1月29日 東京新聞)

2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。特に、パラリンピックについては、「日本は障害者権利条約を守っている国」という前提で、世界中から関係者が訪れることを考えると、国内の対応は急務です。

障害者差別解消法が民間企業に対し努力義務とした(合理的配慮の提供義務)は、障害者雇用促進法が改正され、2016年4月1日から民間企業にも義務とされました。もう一つ、「法定雇用率の算定基礎の対象に、新たに精神障害者を追加」の施行日が2018年4月1日に迫っています。

【ご参考】【障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の概要】厚生労働省(PDF:420KB)

【精神障害者雇用、18年4月義務化 改正法案提出へ】

厚生労働省は21日、2018年4月から精神障害者の雇用を義務付ける方針を決めた。障害者雇用促進法の改正案を今国会に提出する。
知的障害者の雇用が義務化された1998年以来の大幅な制度改正となる。
分科会は今月14日、精神障害者の雇用を義務付ける必要があるとする意見書をまとめたが、企業側の委員から「精神障害者の雇用支援策を充実させ、効果を確認してから義務化に踏み切るべきだ」と法改正に慎重な意見があり、義務化の実施時期が焦点となっていた。
厚労省が雇用義務の対象と想定するのは精神障害者保健福祉手帳を持つ統合失調症、そううつ病、てんかんなどの患者。近年は精神障害者の就労意欲が高まり、大企業を中心に採用が増えている。精神障害者の雇用が義務化されると算出基礎に加わるため、法定雇用率が上がることになる。(2013年3月21日 日本経済新聞)

記事にあるように、2018年から「必ず精神障害者を雇わなければいけない」ということではありませんが、精神障害者雇用に注目が集まることは間違いないでしょう。5年間の猶予期間に、会社は「職場に精神障害者を迎え入れる」準備をしてきたはずですが、準備は整ったのでしょうか。

実は、社会的な環境は決して良くなってはいません。例えば、「相模原事件の再発防止」では、議論が不十分との批判もあったなか、厚生労働省は「精神保健福祉法の改正」で対応することを決めています。

【相模原事件、再発防止へ 厚労省が法改正案 今国会提出】

昨年7月に相模原市の障害者施設で19人が殺害された事件を受けて、厚生労働省は8日、再発防止に向けた規定を盛り込んだ精神保健福祉法改正案をまとめた。有識者による検討チームの報告書を踏まえ、同法に基づく措置入院の解除後の継続支援策を自治体に義務づける。今国会に提出予定だ。改正案によると、都道府県や政令指定市は患者が措置入院中から本人や家族を交えた調整会議を開き、退院後の支援計画を作成。患者の自宅がある自治体が計画に沿って支援する。患者が引っ越した場合は、個人情報保護の規定の例外扱いで引っ越し先の自治体が情報を得られるようにし、支援が途絶えることを防ぐ。
家族らの同意で入院させる医療保護入院の制度は、家族らからの意思表示が得られない場合に市町村長による同意があれば代われるように見直す。(2017年2月9日 朝日新聞)

厚生労働省の検証・再発防止策検討チームがまとめた報告書についてはユニオンでも解説しています。

【ご参考】【〈相模原殺傷〉厚労省主導に限界・・・最終報告】

前例のない重大な事件の再発を防止せよ、という取り組みですから、「やむを得ない事情」が存在するのも現実でしょう。しかし、専門家や有識者が集まって議論された結果が、「措置入院の解除後の継続支援」「退院後の支援計画」にとどまったことは少し残念です。

継続的支援とは、言い換えると「何をするかわからないからずっと見張っている。問題のある精神障害者の個人情報なんて関係ない」ということで、悪い言い方をすると「危ない精神障害者は入院させておく」くらいしか再発防止策が出なかったということです。

事件の再発防止が簡単ではないのは事実です。しかし、事件後にインターネットに繰り返し書き込まれた「よくやった」などの意見、「障害者なんていなくなればいい」と言う犯人を称賛する雰囲気こそが模倣犯を生み、再発につながりかねません。そこを取り締まる是非が議論されるような、総合的な再発防止策が継続的に議論されることを期待します。

そして、再発防止の名のもと「隔離してしまう」ような法改正に加えて、「精神障害(者)はこわい」につながりかねない、もう一つの懸念が「病名の報道」です。

【<元名大生公判>「観察が目的」に検察側「殺意あった」】

名古屋市で高齢女性を殺害し、仙台市で同級生らに猛毒の硫酸タリウムを飲ませたなどとされる元名古屋大学生の女(21)=事件当時16~19歳=の裁判員裁判は2日、殺人未遂罪に問われた2件の硫酸タリウム事件の審理が名古屋地裁(山田耕司裁判長)で始まった。弁護側は元学生が発達障害や双極性障害(そううつ病)の影響で、被害者が死亡する可能性が高いということを思い起こさなかったとして殺意を否定した。「衝動に突き動かされたもので計画的とは評価できない」とも主張した。(2017年2月2日 毎日新聞)

【佐世保高1殺害、少女を医療少年院送致 家裁「治療・教育を」】

長崎県佐世保市で昨年7月、高校1年の女子生徒(当時15)が殺害された事件で、長崎家裁は13日、殺人などの非行内容で家裁送致された同級生の少女(16)を医療(第3種)少年院に送致する保護処分を決定した。決定理由で平井健一郎裁判長は、少女が神経発達障害の一種で、共感性が欠如した重度の「自閉症スペクトラム障害(ASD)」であり、他者に攻撃的な傾向がある素行障害も併発と指摘。(2015年7月14日 日本経済新聞)

病名報道の善し悪しではなく、「具体的な病名が示される事件報道」が、精神障害者雇用の現場に与えかねないマイナス面が心配です。

ソーシャルハートフルユニオンには、双極性障害・発達障害・自閉症スペクトラム障害の人が数多くいます。障害ごとに求められる配慮が違うので、相談者に障害・病名を聞く必要があるのですが、病名を開示しづらい風潮になれば、適切な配慮を見極められない可能性があります。

また、「何となくこわい」と職場の誰かが感じれば、トラブルは必至です。「何をするかわからない」「こわい」ではなく、事件をきっかけに病名を知る。そして、病名から病状・特徴を詳しく知ろうとすれば、理解も安心もできるはずです。すると、トラブルを未然に防げる職場になっていきます。

【ソニー社員自殺、労災認めず 地裁「業務原因ではない」】

ソニー(本社・東京)のエンジニアだった男性(当時33)がうつ病を発症して自殺したのは上司のパワハラなどが原因だとして、両親が労災認定を求めた訴訟の判決が21日、東京地裁であった。佐々木宗啓裁判長は「業務が原因で精神障害になったとは認められない」として、両親の請求を棄却した。男性は2010年に自殺。判決は、男性が同年7月ごろから退職を強要され、強い心理的負荷を受けたと認めた。だが男性はそれ以前に適応障害を発症していたと指摘。(2016年12月21日 朝日新聞)

自殺したソニー社員は、身体障害者として障害者雇用されていました。裁判記録によると、休職して復職した後から「自分の評価が不当に低い」と繰り返し上司に直訴し、時には自分の意見を上司に言うために6時間に及ぶ長時間の話し合いをしていました。

他にも、自殺した社員が「会議中に仕事と無関係な話を延々としていた」「任された仕事がほとんどできていなかった」そのような職場トラブルを頻繁に起こしていたことが裁判で証言されています。これらの事実から、適応障害を発症していたと判断されました。

「会社が退職を勧める以前に、適応障害があった」との判決から、職場が配慮すべきは身体障害ではなく「精神障害に対する配慮」だったと考えることが出来ます。つまり、職場にもう少しの知識・理解があれば、自殺を防ぐことができた可能性があるのです。

「まともに話ができない」「面倒なだけ」と職場が感じれば、当事者を孤立させてしまいます。同じような事件を繰り返さないためにも、企業が「理解不足から孤立させない」ような配慮を模索し続けてくれることを願います。

出典元:外務省・内閣府・東京新聞・厚生労働省・日本経済新聞・朝日新聞・毎日新聞